あんなに美しい男の人に出会ったことがなかった。彼と話し、関わり、逢瀬を重ねれば重ねるほど愛情は深まっていく。
…私は彼を愛している。だから、彼を失うことが、怖い。


蛮骨に出会ってから数年。
家事などの世話をするということで七人隊と共に過ごしている私は、一日の仕事を終えてのんびりしていた。ここは仮住まいの廃墟だけれど、なかなか居心地がいい。

自室の布団に寝そべり、一日を思い返す。…そういえば私、今日は蛮骨にまだ会っていない。仕事の話し合いをしに早朝から出掛けていた彼は、晩飯時にもいなかった。
…会いたい。さすがにもう帰ってきているだろうな。仕事で疲れた身体を起こし、私は蛮骨のところへ急ぎ足で向かった。


彼の部屋の襖の隙間から明かりが漏れているのが見えて、私は歩を更に速く進めた。そして嬉しさのあまり勢いよく襖を開け、室内へ踏み込んだ。


「蛮骨!…、…おかえり」
「おー、名前。ただいま」
「…またお酒呑んでるし。」
「旨いから仕方ねぇだろー」
「二日酔いになったらどうするの?明日は仕事があるのに…」
「大丈夫、大丈夫!」
「まったく…」


蛮骨の横に転がっている瓶を数えてみたが、それは呆れるほどの多さ。私は数えることを止めてため息をついた。いつもいつも酒ばかり呑んで…体調を崩したらどうするのよ。

私は、酒が入っていたであろう瓶を拾い集め、膝をついて片付け始めた。その様子を無言で見つめていた蛮骨は急に立ち上がりこちらに近づいてきた。そして私の肩を抱いて耳元に口を寄せ、私の名前を呼ぶ。
…な、何なの。近距離についどきどきしてしまう自分が嫌だ。


「何か用があって俺のところに来たんじゃねぇの?」
「え、あ、…」
「もしかして…俺に会いたかったか?」
「!」


そう言われるとなんだか照れてしまって、上手く話せないしまともに隣りの彼を見られない。
えーと…、と言葉を濁す私を見て蛮骨はにやにやと気持ち悪い笑みを浮かべている。…こいつ、わかってて言ってやがる。なんだか悔しい。


「そ…そうよ、会いたかったの!戦の前夜だから…不安で…」
「…もしかして名前、俺達が負けると思ってんのか?」
「まさか!七人隊…蛮骨は最強の傭兵だから負けない」
「だろ?」


蛮骨はそう言って口角を緩く上げて笑うと、私の背中をぽんぽんと叩いた。いつもそう、自信に満ち溢れた彼を見ると私は安心してしまって、彼の肩に自分の頭を預ける。そして蛮骨はそんな私の髪を優しく撫でてくれるから、私は更に一時的な安堵に陥る。…この感情は今だけ。


「…蛮骨」
「ん?」
「ありがとう、だいぶ落ち着いた」
「それは良かった」


するり、なめらかに彼は私の頬を撫でて唇へ触れた。私はそっと目を閉じて、高鳴る鼓動に気づかないふりをした。


end


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