「名前、こんなところに突然呼び出して…どうしたんだ?」
「あ、あ、あのね、犬夜叉」
「おう」
「初めて会ったときから、あなたのこと…す…す、すす…駄目!」
「…はい、カットー」


かごめちゃんに台本で頭を軽く叩かれ、顔の火照りがますます強まった。それを見た彼女は私の背中を優しく撫でて落ち着かせようとしてくれた。


「私、やっぱり無理かも…」
「大丈夫だよ。言えるようになるまで練習しましょ」
「ありがとう…!」


ずっと前から犬夜叉のことを好きだったけれど、秘めた想いで終わらせて良いかな、と諦めていた。だけど仲間の皆に「想いを伝えないと後悔するよ!」と後押しされた私は、犬夜叉に告白することを決めた。

だから今日もこうして、かごめちゃんを犬夜叉に見立てて練習をしているんだけど…。
なんで私、ちゃんと告白できないんだろう。練習なのに…本人相手だったら、どうなるの。…想像したら恐くなった。わ、鳥肌。


「落ち着けば絶対に言えるはずよ。私、二人が結ばれるって信じているから」


かごめちゃんは朗らかに笑うと、彼女自身が作った台本(告白大作戦!と書いてある)を丸めて、刀のように振り回し始めた。そして「犬夜叉なんていちころよ!」とガッツポーズ。めらめら燃える炎が見える…。



毎日毎日犬夜叉のいないところで、気づかれないように、私は密かに練習を続けた。それでやっとまともに(噛み噛みだけど)告白の言葉を言えるようになった。


だから私は、ある夕暮れに犬夜叉を河原へ呼び出した。


「名前」
「! い、いいい犬夜叉」
「なんだよ、話って?こんなところに呼び出してよー」
「あああ、えーと、本日はお越しくださり給うて誠にありが」
「待て、落ち着け。深呼吸しろ」


犬夜叉は私を窘めると、困ったように頭を掻いた。そして彼はその場に座り、地面を数回優しく叩いて私を見上げた。…座れってことかな?私は隣に腰を下ろした。

告白する…今。
ごくり、と喉が鳴ってしまう。犬夜叉をこっそり見ると、彼の伏し目がちな表情が普段と違ってなんだか色気を感じた。…駄目、またどきどきしてきちゃった。慌てて前を向き、深呼吸。

そんなことを何度か繰り返していると、突然犬夜叉が私の顔を覗き込んできた。驚きと恥ずかしさのあまり私の身体は硬直。一瞬沈黙になり、自分の心臓がけたたましく動いているのがよくわかった。


「…ちらちら見すぎだ」
「えっ!?」
「何度も俺を盗み見ていただろ」
「!!」
「わかりやすいんだよお前」


犬夜叉に額を数回小突かれ、反射的に私は目を閉じてしまった。地味に痛い…。額に手を当ててさすっていると、私の両目が何かで覆い隠された。…あ、犬夜叉の掌だ。私の手と少し触れ合い、熱を帯びていくのを感じていた。


「あと、…。」
「な、何?」
「…あのな、名前がかごめと何をやっていたのか気づいてた」
「!?」
「わかりやすいって言っただろ」


…思考が追いつかない。
視界は犬夜叉が遮っているせいで真っ暗、彼の表情はわからないから余計に私は困惑した。

半開きのままだった口を慌てて閉じ、どういう意味?と犬夜叉に問い掛けた。すると彼の掌が私の目元を離れ、視界は明るくなった。恐る恐る犬夜叉を見る。彼は真剣な表情で私の眼前に座っていて、なんだか更に緊張した。


「…名前が俺のことをどう思ってんのか聞きてぇ」
「え!わ、わ、私は、…!」


犬夜叉の言葉で、私の心臓は跳ね上がった。…気持ちを伝える機会を与えてくれてる?
私の頭の中はまだ混乱していて状況を把握できていないし、彼の考えもあまりわかっていない。だけど、この時を逃したら、…。

私はぎゅっと目を瞑り、伏せがちだった顔を上げて大きく息を吸った。


「好き…!犬夜叉のこと、男の人として、…好き!」


い、言った、…言えた!
気持ちを伝えられた嬉しさを感じたけれど、なぜか身体が震え始めてどきどきも止まらなかった。…あ、私、怖いんだ。拒絶されたらどうしよう。怖い。

視線を逸らしながら犬夜叉の反応を待っていると、頭に何かが乗せられた。温かい、…また、掌。じわりじわりと熱が広がり、身体の震えも治まっていく。犬夜叉の掌も、好き。彼の優しさが伝わる手。


「…俺も、名前を好きだ」
「!…、…!!?」
「練習の甲斐はあったか?」


いじわるく笑ってみせる犬夜叉に、私は言葉にならない声を発していたけれど、色々な気持ちが込み上げてきて結局泣いてしまった。そんな私を彼は優しく抱きしめ、落ち着くまで背中をさすったり、頭を撫でてくれたりした。


end.

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