「…ちょっと」
「はい」
「その手は何?」
「え、私の手だよ」
「違う…何をやっているのかって聞いているんだけど…!」
「名前の脚を撫でている」


そう言った瞬間、自分の頬に鉄拳が飛んできた。滑らかな脚に夢中だったために反応が遅れ、私の身体は宙を舞った。…嗚呼、何故この手はおなごの脚へ、尻へと動いてしまうのか…何故撫で回してしまうのか…自分が怖い。だが幸せだ。

切れた口内から血を数滴垂らしつつも、つい笑みを浮かべてしまった。直後、視線を感じて頭上を見れば、呆れた表情の名前と目が合った。反射的に愛想笑いを返す。


「こ…今度触ったら、その綺麗な顔に変態、って書いてやる!だからもうやめてよね!」


うっすら瞳に涙を溜めた名前は悔しそうに右拳を震わせ、左手で私の胸倉を掴んだ。苦しい。

…顔に落書き、か…。なんて可愛らしい罰だ。心の中でそう呟いた。
名前は堅実な女性だが、意外と子どものような事を言うからとても面白い。時折見せる彼女の危うさを愛おしくも思える。年齢が同じだからか親近感を持てる相手である。そして、博識な彼女との会話が好きであり、一行の中では接する事が多いことも、確か。

…まあ、撫でたらどうせ殴られるのは目に見えている。彼女は反射的に殴ってしまう人だ。今までの経験でわかった(それだけ彼女の身体を撫でている)。


「…名前は本当に可愛らしい」
「は、はい?」
「聡明で謙虚、そして美しい脚の持ち主!だから―…」
「だからつい脚を撫で回す、と言いたいのですか」
「わかってしまったか」
「…怒る気にもなれない…」


小さくため息を吐いて、名前は私の隣に座った。そんな彼女に気付かれないようにそっと横顔を見る。…幸せだ。
にやけ顔をごまかすようにひとつ咳ばらいをした。そして彼女と同じように空を見上げてみると、心地好い風が私達を包み込んだ。それが気持ち良くて思わず瞳を閉じる。


「春が近いな」
「そうだね、少し暖かくなったかも。桜の開花が楽しみ」
「皆で花見をしようか」
「うん!」


満面の笑みを見せ、彼女は何を準備するべきなのか呟き始めた。…食べ物ばかりだな。なんだか微笑ましくて、思わず少し吹き出してしまった。それに気づいた名前は、むくれた顔で私を小突いた。


「何よ、笑わないで」
「いやあ…、相変わらず食べ物が好きなんだなと思って」
「ち、違うよ!お花見しながらの飲食が好きなだけで…!」
「ふふ」
「笑わないでってば!」


慌てて私を揺さぶる彼女が本当に可愛く思えて、笑いが止まらない。彼女と一緒にいると、風穴の…、死の不安と恐怖が少し和らぐ。そういった感情を忘れる時間が出来る。
改めてそれを確認した私は、数回深呼吸をした。今日こそ言うと決めた。自分の思いを。


「…名前と、これからもずっと一緒にいたい。愛している」
「えっ」
「側にいてくれないだろうか」


彼女の手に自身の手を重ね、真剣に、正直な気持ちを伝えた。そんな私に対して彼女は頬を赤らめながらも、にこりとしてから頷いた。


end.

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