「犬夜叉、毎日もっと抱きしめてくれると嬉しいんだけど!」
「ば!ばかやろう、真昼間から何を言い出すんだよ」
「照れているところがかわいい!」
「うるせぇ名前、黙れ!」


バカップルだなー…とぼんやり思いながら、私はポテチの袋に手を突っ込んだ。数枚掴み、荒々しくかみ砕く。…ああいうバカップルを見ていると、こういうがさつな事をしたくなるのよね。


こんにちは。私は日暮かごめ。
私達は今日も奈落の情報の聞き込みをしていたのだけれど、少し歩き疲れたから休憩を取ることになった。やってきたのは小高い草原。それぞれが好きなように休息している。

珊瑚ちゃんは膝に雲母を乗せて木陰に座り、弥勒様はその膝を触ろうとして殴られ、それを見た七宝ちゃんが「しっかりせねば」と呟く。これは日常的なことであって、慣れた私はそれを温か〜く見守っている。
そんな私でも、ちょっと呆れてしまう光景がある。


「名前、そんなに引っ付くな!」
「やっぱり照れ屋さん」
「誰が!」
「頭撫でてほしいって?」
「そんなこと言ってねぇ!」


…犬夜叉は名前ちゃんに反抗的な態度をとるけれど、頬を染めて満更でもない表情をよく見せる。名前ちゃんはそれに気づいていながら、わざと犬夜叉にちょっかいを出して楽しむ。要は、カップルのじゃれあい…みたいな感じ。
まあ、なんだかんだ言って皆も私もあの光景に慣れたわね。私だって七宝ちゃんとイチャイチャしているし。寂しくなんかないし。


「かかかかごめ!おらの尻尾をそんなに引っ張るな!いたたた!」
「あっ…あら、おほほほ。ごめんね七宝ちゃん。」


…いけない。つい力が入っちゃった。七宝ちゃんの頭や尻尾を優しく撫で、ふと空を見上げた。雲ひとつない、青い世界が広がる。ああ、今日は平和だわ…。



**********



「名前!」
「何ー?」


夜。ごはんを食べ終えたことに満足して寝そべろうとした瞬間、犬夜叉に声をかけられた。振り向けばなんだか不服そうな顔をしている。…お昼にくっつきすぎたことを怒っているのかな?なんて思いつつ、私は軽々しく笑った。だって、真剣に返すのはなんだか嫌だった。話が良からぬ方向に行ってしまいそうで怖い。


「話がある!こっちに来い!」
「ふふ、はいはい」


そう言って小さく笑う私に、犬夜叉は真っ赤になって「笑うな!」と怒った。…うん、気恥ずかしいんだよね、わかっちゃう。そう思うとまた笑えてきて、また怒られて。そんな調子で私達は一行を離れて川原へ歩いていった。






「…名前、お前は恥ずかしくないのか」
「何が?」
「その…昼の…あれだ」
「犬夜叉に抱きしめてほしいって言ったこと?」
「お、おう」
「うーん…」


どう答えようか考えていると川原の石が目に入ったので、なんとなくひとつ拾って川へ投げてみた。水切り、私はあまり得意ではない。予想通り石は一度も跳ねることなく、どぼんと鈍い音を立てて沈んでしまった。


「…あーあ」
「下手くそ。」
「水切りって難しいよね」
「あのな、お前の投げ方がおかしい。それに石も選んだほうがいいんだよ」


犬夜叉はそう言うと、川原にしゃがんで何やら石一つ一つを拾っては捨て、拾っては捨てを繰り返した。選別しているらしい。水切りのコツなんて知らない私は、彼の隣にしゃがみ、じっとその様子を見ていた。


「これが良さそうだな」
「確かに、形がすごく綺麗ね」


犬夜叉は身を屈め、水面と平行にして腕を前後に振り始めた。…なんだかフリスビーを投げるみたい。そう思ったと同時に、石は素早く川へ放たれた。石のスピードはとても速く、何回跳ねたのかわからないほど跳ね、私の時とは違って軽い音を立てて石は沈んでいった。


「す…すごい!」
「だろ?」
「私もやってみる!」


私は犬夜叉の真似をして、川原の石を選別し始めた。彼もさっきの私のように、隣にしゃがんで私の様子を見守る。時々、どんな石がいいのかとか、助言もしてくれる。それがなんだかとても自然で、とても嬉しくて。気づけば私は彼の手を握っていた。


「…名前?」
「ねえ…私、犬夜叉のそういうところがすごく好き」
「は!?」
「照れ屋さんで乱暴なことを言うけれど、本当は優しいところ」
「…おい。突然そんなことを言って…どうしたんだよ」


犬夜叉は俯き、空いている手で河原の石をいじる。あ、照れてる照れてる。その姿がとても愛おしくて、真剣そのものだった私の表情は綻びた。


「だから時々気持ちが抑制できなくなっちゃう。昼間はごめんね」
「皆がいる前ではなるべく…」
「うん、気をつける。でもね」
「でも?」


犬夜叉はじっと私を見た。その表情も声も全てが愛しくて仕方ない。思わず私は彼の首に手を回し、頬をこすりつけて目を瞑った。彼は少しの間を置いてから私の背中を数回優しく叩き、頭も撫でてくれた。


「二人のときはこうしたいな」
「…、…俺も」


end


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