好きな女に強さなんて求めない。例えば、女が力ずくで物事を済ませる…、っていうのはおかしくねぇか?
俺が守ってやればいいし、仕事をこなしていけばいいと思っている。…だが、あいつに出会ってからはその考えが変わりつつある。





「名前!」
「あれ、蛮骨。いたの?」
「ひっでー、毎日会いに来ているのに相変わらずだなー」


名前は、現代とかいう未来の世界からやって来た。どうやってここにたどり着いたのかはよく知らねぇけど、今こいつはとある村の住民として生活している。今から洗濯をしに川へ行くらしく、俺はそれについて来た。
名前は洗濯物を大量に詰めた篭を持ち、河原をざくざく歩いていく。…俺を無視して。さっきから話しかけているのに、最初の一言目以外何も返ってこない。


「おい、無視すんなよ」
「…私ね、洗濯物がいっぱいあって忙しいの。蛮骨に付き合っている暇はないんだけど」
「相槌ぐらい打てるだろー」
「めんどくさい。」


にっこりと笑いながら名前はそう言った。あ、やべ、この感じ…今までの経験からいくと、たいてい苛々していやがる事が多い。俺は黙って名前の隣にしゃがみ込んだ。


「んじゃ洗うの手伝う」
「嫌。あんた馬鹿力だから、服をびりびりに破りそうだもん」
「…否定できねぇ…!」
「でしょ?」


あ。今の名前の笑顔がたまらなく好きだ。俺に呆れながらも、柔らかく温かく笑う。かわいい。


「何よ、にやにやしながら見ないで」
「そんな顔してねぇ!」
「蛮骨は変態だからね」
「否定できねぇ!」
「はいはい、洗濯しまーす」


そう言って名前は川の水をたらいに入れ、洗濯板で着物を洗い始めた。おお…、人には「馬鹿力」と言っておいて、お前もなかなかの力の入れようだぞ。




俺と名前の出会いは、一年くらい前だ。




七人隊としての仕事を終えて息抜きがてら林を散策していると、どこからか矢を射る音が聞こえてきた。
なかなか腕っ節が良さそうだ、暇つぶしに挑んでみようか?
そんな軽い気持ちで、音の方へ歩を進めた。ざく、ざく、ざく。草木を踏み、掻き分け、標的へ近づいていく。


「あ」


たどり着いた先は、どうやら弓術を練習するための場所のようだ。矢を放つ場から的までの間には草木が生えておらず、手入れがされている。
そして、弓矢を放っていたのは、女だった。背筋は一直線に伸び、視点も的へ真っすぐと向けられている。…凛としたその姿に俺は目を奪われてしまい、しばらくの間その女が矢を的へ射る様子を眺めていた。


「…誰?」
「!」


その女に声をかけられるまで俺の思考は停止していた。…そうだ、挑もうとしてここに来たんだった。


「俺は、蛮骨。お前の名は?」


それなのに俺は自己紹介をしてその女と会話をしようと試みてしまった。なぜか?わからない。そうしたかったからとしか言えない。
女からの返答を待っていると、予想にもしなかった言葉がその口から発せられた。


「あの…、なんでその髪型?なんで長髪?おでこの模様は何?」
「………。」


会話が成り立っていねぇ…!
弓矢を肩へかけ、女がこちらへ近づいてきた。そして俺の眼前に立ち、じっと互いに見つめ合った。…いや、なんとなく目が離せなかったからであって深い意味は…、ない、はず。


「……。」
「…なんだよ」
「あ、私は名前。弓術を心得ていて、毎日鍛練しているの」
「あ、ああ…なるほど」
「あなたも何か武術を?とてつもなく大きな鉾を持っているけれど…」
「俺のは独自のもんだ」
「へえ」


そう言いながら女は顎に手を当て、数回頷いた。…さっきはなんで見つめ合ったんだ?よくわからないが、こいつがおかしな女だということは確か。だが、矢を放つあの姿を美しいと感じたのも、確か。


「…その腕を生かさないか?」
「え?」
「俺は傭兵として働いている。お前も一緒に来い」
「嫌。」
「即答かよ!」
「私はのんびり働いて、のんびり暮らしたいの。というわけで、はい、さようならー」
「お、おい、そんなに背中を押すな!待て待て待て!」



……………



こいつは、つれない女だ。
だがめげずに会いに行き続けたおかげで、たまに笑顔を見せてくれるようになった。初めは七人隊と一緒に傭兵として戦うよう誘っていたが、最近じゃそんな事はどうだっていい。ただ、会えるだけで俺は満たされる。


「…なあ、名前」
「何。」
「これからもお前と会いたい」
「…急に、何。」
「なんとなく言いたくなった」
「唐突すぎない?」
「前々から思っていた」
「えー?本当?」
「嘘なんかつくかよ」
「…そうだね、蛮骨は素直だもん」


あ、まただ。ふんわり笑う名前を見ると俺もつられて笑っちまう。不思議だよ、本当。


end.

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