うーん…なんだろうこれは。


三ヶ月前に付き合い始めた殺生丸から、最近意味のわからないメールばかり送られてくる。…文章は普通なんだけど、問題は絵文字。

今回は「仕事が早く終わりそうだ」という文の後に、お寿司の絵文字がついている。なんでこんなのを文末に付けたのかわからず、私は一時間くらい返信をためらっていた。だけど今日はデートの約束をしているからこのままではいけないと思い、なんとかメールを打つことにした。

うーん…「それはよかった!私はもう仕事終わったよ」…よし、これで送っちゃえ!

送信ボタンを押して、私はかばんに荷物をしまい始めた。


彼は絵文字を全く使わない人だった。私自身そんなに乱用しないし、別に絵文字が入っていなくても気にしていなかった。むしろ彼が使うことをイメージ出来ないから、なくていいと思っていた。なのに…。


以前の殺生丸を思い出していると、ケータイの着信音が鳴った。ディスプレイには彼の名前。

えーと?「ちょうど仕事終わりなう。では車で迎えに行く」…今度は、なう、か…。
よくわからないけど、その使い方合ってるの?しかも最後にロケットの絵文字がついている。これが車ならわかるけど…なぜロケット!?

とりあえず返信しよう…「わかった、ありがとう。荷物を片付けなう。じゃあ会社の入口で待っているね」…完ぺきね!送信!

絵文字の意味を解読せず、しかも無意味に「なう」を入れて送っておいた。







しばらく経った後、殺生丸は私の会社に到着した。彼の車を見つけ手を振ると、向こうも気づいてこっちに車を寄せてくれた。そして殺生丸は車から降りていつもと同じように助手席のドアを開ける。とにかく優しい。ありがとう、と言ってから車に乗り込むと、シートベルトを着けながら彼は私の頬を軽く触った。


「…冷たくなっているな。待たせてしまったか」
「ううん。大丈夫だよ」
「会社の中で待っていろと言ったが…」
「あ、ごめん、すぐに会いたくて外で待っちゃったの」
「……」


風邪を引くぞ、と呟いて殺生丸は車を発進させた。…ちょっと困ったような、だけど嬉しそうな、曖昧な表情をしている。


「ところで今日はどこに連れていってくれるの?」
「…佳代、きちんと文章を読んだか?」
「え」


質問を質問で返された。しかもその内容にびっくりして思わず固まってしまう。
文章、ってメールのことだよね。短文だったから全てちゃんと読んだけど…、…まさか、文末にあったお寿司の絵文字に意味が!?…あ!


「えーと、もしかしてお寿司屋さんに行く、…のかな?」
「そうだ。」
「ご、ごめん、実は全然わからなかったの…」
「…何?」
「わー!ごめんなさい!せめて『食べに行こう』って文章をつけてくれれば…!」
「なくてもわかると思った」
「えええ!?…ち、ちなみにロケットの絵文字は…」
「『急ぐ』という意味だ」
「わかるかー!」
「理解しろ」
「無茶言うなー!」


…後から聞いた話なんだけど、殺生丸は同じ会社の奈落って人に目茶苦茶な事を吹き込まれたらしい。「最近の女は絵文字が好きだ。使わぬ男は愛想尽かされるぞ」…と。
その時は鼻であしらったものの、自分のメールが素っ気ないと思い返した彼は、使い慣れない絵文字や流行語を取り入れ始めた、…んだと思う。そこまで話してくれなかったから、これは私の推測なんだけど。


「そんなことで嫌いになったりしないのになぁ」
「…そうか」
「絵文字がなくても素っ気ない感じしないし、殺生丸らしくて好きだよ」


そう言うと、彼は少しだけ口角を上げて私の肩を引き寄せた。


end.


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