「この問題は加法定理を使ってね、それでこれをー…」
「加法定理って何だっけ?」
「うん、五分前に説明したはずなんだけどなぁ」
「ああ!わかった、あれだ、ぐにゃぐにゃ曲がってるやつ」
「…それってもしかして三次関数のこと?」
「なんだそれ?四次元ポケットなら知ってるぞ」
「………」


明日は学年末試験。この試験の出来次第で進級が決まるから、私は彼氏の蛮骨と一緒に勉強をしていた。…正しくは、私が勉強を教えていた。はっきり言ってしまうけれど蛮骨は頭が悪い。特に数学が駄目で、この科目を克服しない限り進級は危うかった。


「このままじゃまた二年生だよ…、どうすればいいのかな…?」
「別に俺はいいけどな」
「ちょ…、そんなの駄目、一緒に進級しよ!頑張ろう蛮骨!」
「まあやってみるけどよ…」


蛮骨はシャープペンをいじりながら、教科書をぱらぱらとめくった。そして加法定理の解説があるページを見つけ、ふーん、なるほどなー、と呟きながらノートに書き写している。その言葉を聞いて、蛮骨は数学を理解し始めているんだと思い、私は自分の勉強を再開した。




そして二時間後。一通り数学の問題を解き終わった私は、教科書を眺めている蛮骨の顔を覗き込んだ。


「どう?だいたいわかった?」
「ああ、俺は数学が出来ないってことはわかった」
「えぇえ!?最後まで頑張ろうよ、私も一緒に考えるから!」
「一生懸命教えてくれる佳代には悪いけど、やる気しねぇし無理。まあ別にまた二年でもいいわ!はははは!」


呑気な事を言う蛮骨に、思わず私はよろめいてしまった。…い、いけない、ここで私も諦めてしまったら試合終了です。やる気だけでも出してもらわないと…!…そうだ、あの事を話せばいいのかもしれない。


「…でもさ、運動会で三年生は騎馬戦やるんだよねー」
「!そ、そうだな」
「進級を諦めるってことは、喧嘩好きな蛮骨は来年度に騎馬戦出来ないのかー残念だなー」
「う…」
「二年生は玉入れだよー繊細だよー難しいよーカゴと自分との戦いだよー」
「ぐ…」
「うちの学年は強い人が多いから、来年度の騎馬戦盛り上がるだろうなー」
「うぐぐ…!」


ぶるぶると拳を震わせ、蛮骨の表情は険しくなっていった。その様子を黙って見ていると、突然彼はテーブルを強く叩いて、教科書と問題集を乱暴に開いた。おお、さすが蛮骨、単純でよかった…!


「…頑張ってみる」
「うん」
「わからなかったら聞く」
「うん」
「悪いけど、今日泊まり込みで教えてくれねぇか?」
「いいよ」
「ありがとな」
「…うん」


結局彼は徹夜で問題集を解きまくった。その頑張りのおかげで、無事私たちは三年生になることが出来た。



end.



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