「鋼牙ー!」


私は妖狼族の住家である洞穴に潜入し、その一番奥に座っている愛しの若頭に向かって叫んだ。そして毎度お馴染みの台詞も付け足す。


「今日こそ私の婿になって!」
「うるせー」


…毎日毎日口説いているのになぜか鋼牙は落ちてくれない。今日もめげずに来てみたけれど、相変わらず彼は耳をほじりながらかったるそうに私をあしらってきた。わあ相変わらずだねー…、慣れたけど!


「そもそもなんで佳代の婿にならなきゃいけねぇんだよ」
「そういう運命!」
「だったら俺はそれを覆す!」
「ひどい…昔は優しかったのに。私とは遊びの関係だったのね!」


そう言って泣きまねをしてみれば、鋼牙の仲間達が私の肩を叩いて慰めてくれた。ありがとう、ありがとう、と皆に頭を下げていると鋼牙が私の首根っこを勢いよく掴んできた。ぐえ、という下品な声が漏れてしまい慌てて口を塞ぐ。


「ちょっと待て佳代。ガキの頃に魚捕りやらで一緒に遊んだ記憶はあるが…、おいてめぇら勘違いすんな!」


鋼牙はそこら辺に捨ててあった骨を仲間達に投げつけ、私を引きずったまま隠れ家を出た。その際門番の人達に「求婚頑張れよー」と言われたから笑顔で手を振ると、鋼牙に頭を叩かれた。い、痛い…。







原っぱへ連れられて地べたに座るよう促され、向かい合って腰を下ろした。暫しの沈黙。私に何か話があるのかな、なんだろう、とぼんやり考えながら空を見つめていると「おい」と鋼牙に話し掛けられた。


「なんで毎日毎日来るんだ」
「鋼牙を好きだから!」


満面の笑みで鋼牙の手を握ると、彼は黙ってしまった。あれ、やっぱり駄目?不安を感じつつじっと見つめていたらようやく鋼牙と目が合った。だけどすぐに逸らされてしまう。


「そ、そんなに見るなよ…」


鋼牙は私の手を振り払い、それから何も言わずに行ってしまった。…ああ、今日も駄目だったかな。

しばらくの間いじけて雑草を引っこ抜いていると後ろから名前を呼ばれた。振り向くと、住家へ戻ったはずの鋼牙が立っている。なぜここにいるのかわからなくて呆然としていたら、彼は咳ばらいをひとつついて話し始めた。


「俺はな、攻めるのは得意だが攻められるのは好きじゃねぇ」
「え、あ、うん、そうかもね」
「だから…」
「うん」
「だから、ちょっと引け!」
「え?」


戻って来てくれたのはすごく嬉しいけれど、何を言いたいのかわからない…!引く、って何を?私に迫られるのが嫌ってこと?話がよくわからなくて首を傾げてみたら、鋼牙は若干腹立たしそうな語調で「つまり!」と続けた。


「積極的に求婚するのをやめろ、って言いたいんだよ」
「やっぱり…、ということは私の婿になってくれないんだ?」
「ああ。俺がお前の婿になるんじゃねぇ、佳代が俺の嫁になれ」
「…は?」


相変わらず偉そうな態度の鋼牙は、踏ん反り返ってそう言った。状況についていけない私は、やっぱり開いた口がふさがらなくて何も言えな…、…ってか、結局は夫婦関係になるんだからどっちだっていいでしょ。


「わけがわからない、って言いたいような顔をしているな」
「だ、だって実際そうでしょ!てっきり嫌われていると思って…」
「好き嫌いのはっきりしている俺が、佳代を嫌いだなんて言ったことがあるか?」
「…ない」


え…え、本当に?夢?夢?信じられなくて頬をつねってみる。うん、ものすごく痛い。
色々と言ってやりたいけれど、それ以上に嬉しい気持ちが勝る。感動の余り言葉が出ずただ鋼牙を見つめていると、彼は残念そうな顔で溜め息を吐いた。


「なんだよ…今まで散々求婚してきたくせにいざとなったらだんまりか」
「当然でしょ!突然過ぎてすごくびっくりしているんだから!」
「ふーん、そうか…、んじゃ今度は俺が攻めてやるよ」


そう言いながら不敵に笑って、鋼牙は優しく口づけてくれた。



end.


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