「佳代の髪、長くて綺麗だよな」
「え、本当に?嬉しい!ここまで伸ばしてよかった〜」
「手入れしてんのか?」
「うん。髪は女の命だからね!毎日頑張ってるよ」


…あ。またあの女、蛮骨の大兄貴と楽しそうに話しやがって…うぜぇ!

談笑する二人の姿を睨みつけて、俺は朝飯を掻き込んだ。ちゃんと噛んで食べろ、という煉骨の兄貴の説教は無視!

…したら殴られた。





七人隊に図々しく割り込んできた槍使いのあの女、とにかく目障り。

あいつは俺達と同じように人殺しが好きだから、傭兵として一緒に仕事することがよくあった。しかもまあまあ強い。俺ほどじゃねぇけど。

んである日、その力に惚れ込んだ大兄貴が「どうせだから俺達と一緒に戦っていこうぜ」って誘っちまったわけ。

皆(特に霧骨の野郎)は受け入れているみたいだしあの女もかなり喜んでいたが、俺だけは違う。女なんか、大っっ嫌いだ!





大兄貴が取引の話をしに行くのを見送り、俺は隣にいる目障りな女の背中を蹴り飛ばした。油断しきっていたこの女は、おかしな悲鳴を出して顔から地面に倒れてった。ざまあみろ!


「な、な…何すんのよっ」
「お前、どっか行け」
「仲間として認めてもらったから私はどこにも行かない!」
「俺はお前なんか認めねぇ!」
「ひどっ!じゃあ私はどうすればいいの?」
「そうだな…俺をびっくりさせるようなことをしたら認めてやってもいいけどー」


そう言うと、女はじっと俺を見てから、わかった、と小さく頷きやがった。え、本気にしてんの?冗談で言ったつもりだった俺はその時点で少しびっくりしたが、悟られないように女に対して背中を向けた。


「後ろから飛びつくとかは無しだぜ」
「そんなことしないし!しかもそんなことしたら斬られそうで怖いわ!」
「ま、本当に殺られないように気をつけとけよな」


捨て台詞を吐いて振り返りもせず、俺達が根城にしている廃屋へと歩く。後ろから、私のこと好きにさせてやる!という叫び声が聞こえたけど無視。女なんか好きになるかっつーの。






とは言ったものの…あの女の燃えるような眼光が脳裏に焼き付いちまった。何するつもりだ?女のくせにめげずに頑張るなー。

そんなことを考えながら縁側で酒のつまみの魚を焼いていると、遠くのほうにある木々から大兄貴が顔を出した。おかえりー、と声を掛けると、俺に気づいた大兄貴が笑って手を振る。


「蛇骨ー、佳代がどこに行ったか知らねぇか?」
「…あんな女どうでもいい」
「ん?もしかしてお前、まだ佳代を目の敵にしてんのかよ」


蛮骨の大兄貴はそう言い、俺の肩を軽く叩いてから隣りに座った。…またあの女のことかよ。無意識に俺の頬はむくれちまう。


「なんで女なんかと一緒に行動しなきゃいけねぇんだよっ」
「そんな風に言うな。案外女の方が強かったりするぜ」
「どこが!」
「んー…、特に精神的に?」
「大兄貴の言い方説得力ねぇなー」
「なんだと?俺の経験から言ってんだから説得力あるはずだぞ!」


そう言って清々しい笑顔を見せる大兄貴、めちゃくちゃかっこよくて大好きだ。あ、もちろん尊敬の意味で!


「うわああー!佳代、どうしちまったんだよそれー!!」


大兄貴のかっこよさにほれぼれしていると、廃屋の中から霧骨の悲鳴が聞こえてきた。何かあったのか?…ってかあいつ、相変わらず変な声だな〜。大兄貴と顔を見合わせ、互いに首を傾げる。






中に入ってみると、うずくまって号泣している霧骨の姿があった。心配した大兄貴はしゃがみこんで奴の身体を起こす。


「おい霧骨、どうした?」
「ずび、ずずず、大兄貴…。お、俺の…、佳代が、俺の…」
「みっともねぇから泣くな!何があったのか言え」
「わ、悪い…。実は、佳代が、俺の佳代が…!」


霧骨が泣きながら大兄貴にしがみついたその時、奴の頭を誰かが思いっきり踏み付けた。びっくりして霧骨の頭上に目をやると、犯人はあの女(若干キレている)。
更に驚いたことに、こいつは腰まであった髪を荒々しくばっさりと切り、男物の衣服を身にまとっていた。俺も大兄貴も、開いた口が塞がらない。


「佳代…!どうしたんだよそれ、綺麗な髪だったのに…しかも、男の着物なんか着て…」
「ふふーん、似合うでしょ」
「俺の佳代が、男になっちまったー!ずびずび、可愛い俺の嫁がー!」
「誰が霧骨の嫁よ、誰が。しかもまだちゃんと女だからね」


満面の笑顔で女はぎりぎりと霧骨の襟を握りしめ、拳を震わせている。…ってちょっと待て。たしかこの女、髪は女の命って言っていたような…。
茫然と女を見ていると目が合い、霧骨から手を離してこっちに歩いてきた。


「蛇骨は女が嫌いみたいだから、少しでも男らしくなろうかと思ってねー」
「そ、そんなんで好きになるわけねぇじゃん」
「でも、びっくりしたでしょ?」


艶やかに微笑む女。その言葉に思わず俺は吹き出しちまって、それから大爆笑。
俺を驚かすためだけに、髪をばっさり切って男装して。…馬鹿だ、馬鹿だけど、そういうの嫌いじゃねぇかも。あーおもしろ!


「佳代…そこらへんの女とは違うって事は認めてやるよっ」
「あ。初めて名前呼んでくれた!」
「うるせぇ、そんな事で喜ぶな」
「嬉しいから仕方ないでしょ!」


佳代はそう言って朗らかに笑った。それを見た大兄貴の表情も笑顔になったが、霧骨は相変わらず泣いていた。





…ま、あれから幾年、今では女の格好をした佳代でも大丈夫になった。というよりも…、まぁ…、うん。懐かしいな〜。


「蛇骨、何にやにやしてるの?」
「ん?お前を好きになったきっかけを思い出してた」
「えー!なんだか照れちゃうな。ちなみにいつ?あ、毎日惚れ直してる?」
「うるせぇ、その自信満々なところを直せ!…ほら、帰るぞ!」


そう言って佳代の手を強引に引っ張ると、こいつは俺の隣に駆け寄ってはにかんだ笑顔を見せた。


end.





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