「おい、悪かったって」
「……」
「佳代、なんか言えよ」
「黙って。」
「…………」


今日は私の誕生日、だけどこの三つ編みやろう忘れてやがった。一緒に出かけようって誘われたからどきどきしていたのに!

依頼人と仕事の話をするために、そういう交渉が得意な私をわざわざ連れ出したらしい。だったらそう言え、煉骨に頼め。
いらいらしている私は、蛮骨から距離を置きつつ先方の城へと歩いていた。


「仕事の話が終わってから祝えばいいだろ?」
「そういう問題じゃない」
「どういう問題だよ」
「自分で考えろ!」


後ろを歩いていた蛮骨が駆け寄ってきたけれど、私はそう言い捨ててさっさと先へ向かう。少し蛮骨が気になってそっと様子を伺うと、やつは見事に拗ねていた。頬を膨らませているし。
そんな顔、かわいくないから!






「では、報酬はお前達の希望通りで良い。三日後にあの城に攻め込むぞ。戦法は…」
「必要ないです。七人隊のやつらが勝手に暴れるので、巻き込まれないよう気をつけて。殺されても責任を負いませんから」
「ってわけだ」
「む…わかった」


城に着いてから中に案内され、先方の騎馬隊隊長と殿を交えて四人で会談をしたら話はすんなりまとまった。
蛮骨と騎馬隊隊長ががっちりと握手を交わしている間、私はしっかりと殿の合意書をもらってから城を出た。

くそ、蛮骨め、いつものことだけど私に何もかもやらせやがって…!






「待てよ!まだ怒ってんのか?」
「べつに」
「ってことは腹減ってんのか」
「べつに!」


帰り道、私は行きと同じように蛮骨にそっけない態度をとっていた。…なんだか、引き返せないの。こうなったら私の自尊心を守りつづけてやる!
…要は、仲直りする機会を逃した。


「なー、無視すんなよ」
「……」
「おーい」
「……」
「佳代」


ぎゅ、と強く左手を掴まれて私は足を止めた。ゆっくり振り返ると、寂しそうな表情の彼が立っていた。そして蛮骨は私の両肩を掴んで正面に立たせ、瞬き一つせず私を見つめる。


「俺、お前のこと好き」
「何よいきなり」
「お前もだろ?」
「…、そうじゃなきゃこんなくだらない事で怒ったりしないよ」


私が戸惑いながらぼそぼそした声でそう伝えると、ちゅ、と蛮骨が口づけてきた。一瞬のことだったから何も抵抗できず、顔を離した彼とばっちり目が合った。…よくされる事とはいっても、やっぱり頬に熱が集中してしまう。焦る!


「あ…あんたね、口づけでごまかそうとしてるでしょ」
「いや、したいからしただけ」
「空気読んで我慢しなよ!」
「無理」
「おい!」
「とにかくお前と気まずいのは嫌だ、口づけだってもっとしたい。今から盛大に佳代の誕生日を祝う!悪かった!」


こいつ相変わらず無茶苦茶!しかもなぜか胸張ってるし!
謝っているのに偉そうかつあっさりした態度の彼を見て、思わず私は吹き出してしまった。はっ、と気付き顔を上げると、蛮骨も笑っている。すごく嬉しそうに。
…その表情ずるいわ。なんだかどうでもよくなって、私は蛮骨の手を取って歩きだした。


「言っとくけど、次忘れたらぼっこぼこに殴るからね!」
「ふーん、じゃ、今度の誕生日も俺の側にいるんだな」
「…当たり前!」


なんでも許してしまう。
これを盲目って言うのか。


「佳代、誕生日おめでと」
「…ありがとうございます」


end.




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