がしゃ、がしゃ、がしゃ

村のごみ捨て場を漁り、なんとか腹を満たそうとする私。先程畑の作物を盗むことに失敗し、しこたま殴られてしまったから今日はここで凌ぐしかない。

夢中になって食べ物を探していると、背後に微かな気配を感じた。ごみに片手を突っ込んだまま振り返ると、私とあまり年の変わらない少年が一人、私の醜態を傍観していた。その姿が少し気に食わなかったが、空腹の私は構わずごみを探る。


「お前、捨て子か?」
「……」
「おーい、反応しろ」


無視をしていると突然少年が私の手首を掴んできて、結果私は食料探しを妨害されてしまった。さっさと何かを食べたい私は、仕方なく問いに答える。


「…誰かに殺された」
「両親を?」
「私の一族、皆。おかげで私はこの有様なの。わかったなら邪魔をしないで」
「ふーん、そうか…、行く当てがないなら俺についてこいよ」


…餓鬼のくせに何を言っているんだ。そう思って少年を睨みつけたら、彼は何かをこちらに放ってきた。暗闇のため目をこらして見ると、それは何かの包みだった。おもむろに開封してみれば、その中には握り飯が二つ。気づけば私はそれらに食いついていた。






「蛮骨、なぜ私を七人隊に入れてくれないの」


あれから五年、徐々に仲間を増やしていった蛮骨はいつの間にか七人隊の首領として戦場を渡り歩くようになった。だけど、私は古くから共にいるのにその一員にしてもらえない。自分だけが不確定な位置のままここにいる。
それが不満な私は、廃れた寺の一室で一人酒を呑む蛮骨に詰め寄った。彼は私を見つめ、不気味ににたりと笑う。


「お前は甘い奴だから七人隊に向いてねぇよ」
「私は甘くなんかない」
「人間を殺した事はあるか?」
「…ない」
「だろ?俺達は殺人集団って呼ばれてんだ。佳代には無理だな」


蛮骨はそう言ってから何も話さず、ただひたすら酒を呑み続けた。

人を殺すのは、怖い。家族を殺された事を思い出してしまう。そういう事を生業としている蛮骨を怖く感じる時もあるけれど、彼は私を救った人物でもある。だからなかなか嫌いにはなれない。むしろ、好き。

…殺しを躊躇う奴は戦場に要らないから仕方ないか。そう思った私は蛮骨から酒を分けてもらい、二人で呑み明かす事にした。







「あ、大兄貴と…佳代?また二人で酒呑んだのかよ。ずりー」
「おー、旨かったぜ」


蛇骨は部屋に入ってきて、酒の入っていた壺を覗き込んだ。もう残ってねぇよ、と言ってやると蛇骨は拗ねた表情のまま俺の隣に座り、頬杖をつく。


「二人って仲いいよなー。ほぼ毎晩一緒に酒呑んでいるし」
「たいていこいつが先に酔い潰れて、俺が布団まで運んでやらなきゃいけねぇんだけどな」


側で寝息をたてる佳代の頭を撫でてみる。起こさないように佳代を持ち上げようとしたら、なあ、と蛇骨が俺を呼び止めた。


「…もしかして、まだあの事話してねぇのか?」
「ん?」
「佳代の家族、大兄貴が殺しちまったって話だよ」
「あー…言ってねぇな」


代々佳代の一族は剣術を得意とし、巷では強い奴らだと噂になっていた。当時力試しを始めたばかりでそれをかなり楽しんでいた俺は、当然家に乗り込み戦った。

その一族を滅ぼした。…と、思っていたが。数年前、こいつが唯一所持していた刀の紋を見て驚いた。生き残りだという事にあの時気づいたが、佳代に何もせず今まで生きてきた。

佳代の頭から手を離し、俺は蛇骨の前に座り直す。


「確かに殺したのは俺だし、最悪だったと思う。過去は変えられねぇし。だが、俺にはこいつが必要だ」
「…だから言わないのか」
「ああ」
「そっか…大兄貴が決めたことだから俺は何も口出ししねぇ」


そう言った蛇骨はなんだか悲しい表情で部屋から出て行った。何とも言えない気持ちでしばらく佳代を見ていたが、とりあえずこいつを布団に寝かせ、俺もその側で眠った。







首元に冷たいものを感じ、それに起こされてゆっくり目を開けてみる。眼前には俺の上に跨がって佳代が刀を刺そうとしている姿が。辺りを見ると、まだ暗い。…あれからあまり時間が経っていねぇみたいだな。


「佳代、寝ぼけてんのか?危ねぇからそんなもん仕舞えよ」
「あんただったんだね」
「……」
「どうして私の家族を殺したの!?」


…そうか、さっき起きていたのか。危機的状況にも関わらずやけに俺の脳は冷静であり、抵抗もせず佳代をひたすら見つめ返すだけだった。


「否定しないの?」
「事実だからな」
「最低…、敵討ちをしてやろうと思っていた。今日という日を、ずっと待ち侘びていた」


…まあ、殺されても仕方ない事を俺はやってきた。こいつの苦しむ姿を側で見てきたし。なぜか抵抗する気にはならず、憎しみに満ちた表情の佳代を見ていた。
そして佳代は刀を握る手に力を込め、大きく振りかぶる。


「…抵抗しないの?」


だが佳代は俺を殺さず、そう言ってから刀を手から落として涙を零し始めた。俺の頬にそれがぽたぽたと落ちる。


「お前こそ、殺さないのか」
「…出来ないよ。どうして蛮骨が敵相手なの?どうすればいいの、私」
「…だからお前は甘い奴だ、って言っただろ」


佳代は俺の横にへたり込んで泣き続けた。いつの間にか俺はこいつを抱き寄せ、頬には一筋の涙が伝っていた。



end.





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