ある日の早朝、宿屋にて。


「犬夜叉ー!」
「なんでぃ、気安く触んな」
「触るくらいいいじゃん!今、すっごい暇。つまんないの」


畳で寝転がっている犬夜叉をつっつきながら話しかけると、彼はぽりぽりと頭を掻きながらうっとうしそうに私の手を払いのけた。

かごめちゃんと七宝ちゃんは買い出しに行ってしまって、いない。弥勒様は珊瑚ちゃんと修行へ出かけたから、いない。この部屋には犬夜叉と私の二人きり。


「うっせぇ、暇ならどっか行けばいいだろ」
「んじゃどこか行こうよ」
「てめぇだけで行け」
「えー…」


だけど犬夜叉は素っ気ない、二人きりなのに!コイツ、私のことを女だと意識してないな。失礼なやつめ。


「一人じゃ寂しいから一緒に行こうよ」
「それならどこも行かなきゃいいじゃねーか」


蔑むように鼻で笑い、私に背を向けたまま犬夜叉はそう言った。…全く相手にされてない。おい、いい加減にしろよ犬夜叉。


「…どうしてもダメ?」
「駄目じゃねぇよ、い や なんだ」


…。犬っころめー!完全拒否だな、どうしても行きたくないんだなお前は!!
いつもなら諦める私だけど、今日は違う。


「…コレあげるから!」
「そ、それは…しーふーど味!」


よだれを垂らしかける犬夜叉。それを見て私は小さくガッツポーズをした。ふっ。勝った…!
こんなこともあろうかと、シーフードのカップ麺をかごめちゃんから調達していたのよ!私は見せ付けるように犬夜叉の眼前でそれをぷらぷらと振った。


「欲しいでしょ、食べたいでしょ?」
「っ…」
「一緒に出かけてくれるならあげてもいいんだけどなー」


私は、お返しとばかりに犬夜叉を冷やかす口調でそう言った。普段の犬夜叉ならキレるだろうけど、好物のカップ麺を出されると反発できないらしい。
彼は悔しそうな表情をして、しばらく考え込んだ。


「…行けばいいんだろ、行けば!」
「ありがとーっ」


好物強し、犬が釣れた!
…というわけで、どこに行くか決めようか!私がそう言うと、犬夜叉は「決めてねぇのかよ」とかなり嫌そうな表情を見せた。
まあそれは気にしないでおいて、…うん。現代ではあまり行けない場所がいいんだよなぁ…尚且つ安らげる場所!


「よし…じゃあ森を散歩しよう!」
「森だと?」


たまにはゆっくり気を張らずに森を歩きたい。普段歩き回っているし、犬夜叉はせっかくの休みに行きたくないのかな。彼の眉が斜め五十七度に上がっていた。こうなったら…


「んじゃカップ麺は私が」
「行く。」


…よし。
必死に私の袖を掴む犬夜叉と一緒に、森へ向かった。







「あ!あそこで小鳥が鳴いてる」
「当たり前だろ」


「あ!あそこでリスが木の実を食べてるよ」
「腹減ってたんだろ」


「あ!あそこに川がある!」
「だからなんだよ」
「…犬夜叉って冷たいね」
「うるせー」


鼻歌まじりで生き生きと森を散策する私に対して、犬夜叉は反応が薄い。やっぱり無理矢理連れてきたからなのかな。

なんとなくうろうろしていると、木陰のある心地良さそうな芝生を発見!私は迷わずごろりと寝転んだ。
視界にはさわさわと揺らめく葉と、それら間に見える綺麗な青空。ああ、現代の都会ではなかなか出来ない体験だな…。


「…こんなにゆっくりするの久しぶりかもね」
「そうか?」
「そうだよ。犬夜叉も今日くらいはゆっくりしたら?」


私は思いっきり伸びをして、側に立つ犬夜叉を見上げた。私の言葉を聞いて彼の表情は不満そうなものになった。


「…宿屋でゆっくり寝てたのに、てめぇが邪魔したんだろーが」
「そうだった?ごっめーん」
「全然悪気ねぇだろ!」
「アハハハハ」
「ったく…」


犬夜叉はなんだかんだ言って微笑んでいた。彼は寝転がる私の横に座り、軽く息を吐いた。
ちょっとはリラックスしてくれたかな…?そう思って犬夜叉を見たとき、視界の端に川が入った。きらきらと光を反射して、清らかさが伝わってくる。てゆーか、気持ちよさそう!!
起き上がって靴を脱ぎだすと、犬夜叉が目を丸くして私を見つめてきた。


「な、何するつもりだよ」
「あそぶ!」
「…は?」


バッシャーン!「わっ」

犬夜叉の方に笑顔を向けた後、私は勢いよく川へ飛び込んだ。あ、意外と冷たい!


「気持ちいい、サイコー!川サイコーだよ!」
「オイ…佳代」


名前を呼ばれて振り返ると、後ろにはびしょ濡れの犬夜叉が立っていた。


「あれ、なんで濡れてるの?」
「てめぇが川に飛び込んだからだろ!」


私が川に入ったときにできた水しぶきが犬夜叉にかかったらしい…。髪からポタポタと雫が零れ落ちる。おもしろ、あ、でも笑ったら殴られそうだからとりあえず我慢しよう!


「ガキじゃねぇんだから川なんかで遊ぶなよ!」
「うるさいなぁ…とりゃ!」
「!」


軽い気持ちで犬夜叉の顔に向かって水をかけた。彼はうつむいたまま、何も言わない。その反応が不思議で、心配で、私は犬夜叉におそるおそる近付いた。


「い、犬夜叉?」
「…俺に喧嘩売ったな」
「え」
バッシャーン!「ぎゃー!」


犬夜叉が、さっきよりも大きな水しぶきをたてて川に飛び込んできた。こいつの負けず嫌い魂に火をつけちゃったよ!つかめちゃくちゃ冷たいんですけど!


「何すんの!」
「さっきのお返しだ!」
「くたばれ犬夜叉ーっ」


ひたすら水をかけ合い戦い続けた…。ここで負けたら嫌だ!なんか嫌だ!




……………………………




「つ…疲れた…降参降参」
「俺に勝とうなんざ百万年早ぇんだよ!」
「そんなに生きられないし」
「一生勝てねぇってことだ」
「うわウザい…」


悔しがる私に構わず、バシャバシャと音をたてながら犬夜叉は陸にあがった。打倒・犬っころ…!!その後ろ姿を見ながら、ヤツを倒すことを決意した。




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