「蛮骨の大兄貴おっはよー」
「あぁ」
「あのさー、今日こそ大兄貴の髪を…」
「蛮骨ー!」


遠くから俺の名前を叫びながら走ってくる一人の少女。あいつの姿を見て俺は肩を落とした。


「…また来やがったのか、佳代」
「女はあっち行けよっ」
「オカマこそ消えろ!」
「なんだと!?」


ここは地獄。犬夜叉達と戦い再び死んじまった俺達七人隊は、今ここでショービジネスをしながら暮らしている。
そして佳代というこの女も、地獄で暮らす人間の一人。生前は暗殺屋をやっていたとかいなかったとか…。毎日俺の元へ来ては、蛇骨と喧嘩ばかりしていやがる。


「うるせーぞてめぇら、どっか行きやがれ!」
「…あー!!」
「蛮骨ったらー!」


俺に向かって同時に指をさす蛇骨と佳代。顎が外れそうなほど、大きく口が開いてちまってる。なんだこいつら、そんなに驚くようなことがあったか?


「もう髪結っちゃうなんて、…信じられない!」
「大兄貴のバカー!」
「バカとはなんだ、バカとは」


ああそういうことか…。蛇骨と佳代の二人は、俺の髪を結いたいらしい。毎日のようにそれを言い争っているわけだ。
だがそんなことをされたくない俺は、こいつらが喧嘩をしている間に普段通り素早く結った。


「俺は女じゃねぇんだから、絶対に結わせねぇぞ」
「そんなぁ〜…」
「いつも三つ編みだなんてつまんない、他の結び方にも挑戦してみたいし」
「…てめぇは俺の髪で遊ぼうとしてるのか」
「うん!七人隊のグランドショーを見てから、蛮骨に一目惚れしちゃってさー」
「…は?」


佳代の思わぬ告白に俺は言葉を失い、こいつを無意味に見つめた。そんなこと、あっさり言っちまうのかこの女は。


「一目惚れぇ!?蛮骨の大兄貴は絶対に渡さねぇぞ!」
「いや、蛇骨。その言い方は勘違いされるからやめ」
「ふふふ二人ってそんな関係だったの!?」


佳代は衝撃を隠せず、眉間にシワを寄せ口の端をひくつかせた。信じられない!蛮骨にそんな趣味が!?と叫んでいる。ほら見ろ、勘違いしやがった!


「待て、ちげーよアホ!」
「そうなんだ…」
「話を聞け!そしてなんだ、その目は!」


完全に誤解をしてしまっている佳代に、懸命に説明するが通じない。それを見た蛇骨がこの女に向かって叫ぶ。


「女っ!俺の恋人は犬夜叉だけだし、大兄貴は大切な人!」
「…犬夜叉ってお前の恋人だったか?単なる想い人だろ」
「あ!そういえばそうだなー、あはははは」
「犬夜叉っていう人を…好き」
「やっとわかったか」


誤解が解けたようで、俺は胸を撫で下ろした。あー焦った。
しかしそれは一瞬だけで、予想外にも佳代からの容赦ない攻撃は続く。


「蛮骨、あなたは蛇骨にとって二番目なのね…可哀相に」
「なんでそうなるんだよ!そしてなぜ俺は同情されてるんだ?!」
「照れるな照れるな」
「照れてねぇ」


俺達の関係を誤解し続ける佳代に、ツッコミの嵐が絶えなかった。否定するのがめんどくさくなり、オレが疲れ始めたとき…


「あ、地獄の番犬に餌あげる時間だ!んじゃ蛮骨、明日こそ結わせてねー」
「嫌だって言っただろ」
「絶対に結ってみせる!」
「アホか」
「んじゃ、明日の朝は襲いに来るからね。バイバ〜イ」
「おー…って待て!襲いに来るって…オイ!」


佳代は迷言を残し、地獄の果てへと走り去っていった。






次の日の早朝。佳代は宣言通り俺を襲いに来た。もちろん蛮竜で斬りかかってやったが。


「帰れー!」
「ケチー!」




「あ、あの女苦手だ…なんか調子狂う」
「大兄貴ぃ、それって恋ってやつかもしれねーな」
「ち、ちげぇよ、霧骨、てめぇじゃねーんだからよ!」
「素直に言っちまえばいいのによー」
「黙れ霧骨!」
「ぎゃあぁぁあああ!」


…俺とあの女が親密になるのは、まだこれから先の話。




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