「佳代」
「なに?弥勒」
凛とした心地のいい声。私の名前を呼ぶお前の声が何よりも好きだ、そう言うと頬を赤く染めながら笑顔でありがとうと彼女は言った。
この言葉、この笑顔。彼女の全てを失いたくないと、心から願う。
しかし、私は奈落を追わなければならない…私と一緒にいれば、佳代も危ないはず。
「…どうしたの?」
私が自分の手を眺めていると、心配そうに佳代は覗きこんできた。彼女に心配をかけたくないから私は笑顔をつくる。
「少し手が痛んだだけだ…大丈夫」
「無理しなくていいよ」
「え?」
彼女は後ろからそっと私を抱き締める。優しく香る、彼女の心地いい匂い。
「…私は別に無理なんて…」
「嘘つき」
私から一度離れ、瞳を見つめてくる佳代。澄んだ瞳。彼女は私の嘘を全て見透かしてしまうようだった。…そんな目で見られたら、どうしようもないな。
「…佳代には敵わない」
「ふふ、敵うわけないよ」
冗談交じりで言ったのだが、彼女に言われてしまうとその通りだな、と思ってしまう。私が笑うと彼女も笑った。
「愛しているよ」
「え、何?突然…」
「共に生き、共に笑い、苦しみを分かち合える関係でいたい」
「なんだか、誓いの言葉みたいだね」
「誓っているんだ」
「…じゃあ私も…誓います」
小さい声だがはっきりと佳代は答えてくれた。そして再び、お互い笑い合って手を握り締めた。