あの頃私の隣りで笑ってくれたあいつは、今、どこで何をしているんだろう。
犬夜叉がいなくなってから三回目の春がきた。「佳代のところに帰ってくるから待ってろ」という彼のその言葉だけを信じて、私は今でも待ち続けている。
「…会いたい」
早く、早く、会いたい。抱き締めたい。あの馬鹿に、帰ってくるの遅いわって言ってやりたい。今日も私は、犬夜叉と約束した大木の前に腰をおろした。上を見ると、あの日とは違って青い空に大きな雲が浮かんでいる。
…犬夜叉が私の前からいなくなった日。空はよどんでいてまるで私の心をそのまま表しているみたいだった。
「…今日も来ないのかな」
もう慣れた。最初は泣いてばかりだったけど、今となっては涙なんてでない。
昨日と同じように日が暮れて、一昨日と同じように星たちが姿を現す。毎日毎日同じことの繰り返し。生きているのかわからない。あいつが私との約束を覚えているかもわからない。だけど私は待ち続けている、犬夜叉のこと信じているから。好きだから信じたい。
犬夜叉と過ごした日々を思い出していると、いつの間にか日が暮れて寒くなり始めた。
帰ろう。そう思って私は立ち上がり、いつもと同じように後ろを振り返る。犬夜叉がいるわけなんてないのに、確認することが癖になってしまった。
「佳代」
夜桜が散る中、どこからか私の名前を呼ぶ声が聞こえる。人の気配なんてないのに…誰?
「佳代、こっちだ。久しぶりだな」
声のする方を見ると、そこには懐かしい姿があった。闇夜の中、月明りに照らされる銀色の髪、金色の瞳。会いたかった、
「犬夜叉…?」
私は彼に駆け寄って思い切り抱き締めた。強く、強く、自分の力の限り。もう離さない。
「…会いたかった…」
「俺も。遅くなって悪かった、佳代」
そう言って彼は私を抱き締め返し、優しく髪を撫でてくれる。懐かしい匂い。懐かしい温もり。犬夜叉は私の名前を何度も呼ぶ。それだけで私の心は満たされる、愛されてるんだなって思えた。