「あーもう無理、ごめん、一緒に旅出来ない!さよなら」
「え、佳代ちゃん?!」
私はそう言い捨て、仲間達の元から離れるために全速力で走り去った。彼等には些細な事なんだろうけど私は我慢出来なかった。落ち着いてられなかった。
―…おいかごめ、さっきから足引きずってるぞ。怪我したのか?…―
…あの犬夜叉の言葉。彼はただ単にかごめちゃんを気遣っただけなんだけど、私はそれに苛つかされた。
犬夜叉がかごめちゃんを想っている姿を見るのが嫌い。あいつ、私がケガをした時は、唾つけとけツバ!って笑ってたくせにね!
かごめちゃんは優しくて可愛いくて精神面でも強いし…私は彼女をすごく尊敬している。かごめちゃんになりたいって思ったこともある。
こんなに犬夜叉のこと好きなのに、あの二人の絆は強い。私の入る隙間なんかない。
「佳代!」
「い、犬夜叉…」
とぼとぼ歩いていると、後ろから走ってきた犬夜叉に呼び止められた。…追いかけてきてくれた?
「てめぇいきなり何言い出してんだ、このバカ」
「ばか!?」
「突然旅から脱線しやがって…ったく、手間がかかる奴だぜ」
はぁ、と深いため息をつき、犬夜叉は私の腕を掴む。そして行くぞ、と言った。
「…もう犬夜叉達とは旅出来ないって、言ったじゃん。行かないってば!」
犬夜叉に掴まれている腕を思いっ切り振り払い、拒絶の意を私は示す。
本当は犬夜叉が呼び止めてくれて嬉しかった。なのに、素直になれない。かごめちゃんと犬夜叉が仲良くする姿を、私は見たくないし。もう限界。
「…わかった。もういい」
「え」
犬夜叉の言葉に驚いた私は俯いてた顔を上げ、彼を見つめた。
「もういい?」
「ああ、お前が嫌なら、無理して来なくていい」
「!」
自分で言い出したくせに、彼に承諾されるとなんだか悲しくなってくる。ちょっとは引き止めてくれてもいいんじゃないの?
そう思った時、私は自分の愚かさに気付いた。自分で皆から離れる、って決めたくせに、引き止めてほしいなんて。めんどくさい女。嫌になる。
「その代わり、一つ聞かせろ」
「え?」
「なんで急にそんなこと言い出したんだよ。何が嫌で、俺達から…俺から離れるんだよ!」
声を荒げて言う犬夜叉の姿に、私は正直ビックリした。
「それは…えっと…その、」
「なんだよ、言えねーのか」
「…ムカつくの」
「あ?」
「ムカつく、犬夜叉のバーカ!!」
「はぁぁぁぁ?!」
私は出来るだけ大きな声で、自分の気持ちを犬夜叉にぶつける。彼が怒っているのは感じられたけれど、私は続けた。
「犬夜叉のこと好きすぎるからヤキモチ焼いちゃうんだよ!」
「は!?」
恥ずかしさからか、私の顔がだんだん熱くなるのがわかる。冷静になって私は犬夜叉の顔を見た。その時、私達の距離がかなり近いということに、やっと気付いた。興奮のあまり気付かなかったけど私は犬夜叉に迫りながら告白していたらしい。
そして突然手を犬夜叉に掴まれ、身動きが取れない状態になってしまった。私をじっと見つめる犬夜叉。視線を逸らせず、私もその綺麗な瞳を見た。
「ど、どうしたの?」
「…だったら俺の側にいればいいじゃねーか」
「えっ」
「どこにも行くなって言ってんだよ」
私の腕を掴む犬夜叉の力が、より一層強くなる。でもその力は、何故か痛くなくて…その強さから犬夜叉の優しさを感じた。
信じられない。私の勘違いだったらアレだけど、どこにも行くなっていうのは…
「犬夜叉は、どういうつもりでそんなこと言ってくれるの?」
「え」
「仲間として離れてほしくないって意味?」
「ばっ、ちげーよ!」
彼は少し怒鳴るように否定し、すぐさま私の視線から目を逸らす。よく見たら、犬夜叉の頬がほんのり赤いような…
「犬夜叉、あの夕日、赤いね」
「ああ」
「犬夜叉の顔も赤い」
「…」
「夕日のせいで赤いの?」
「…んなわけねぇだろ」
「じゃあなんで赤いの?」
そう尋ねると犬夜叉は更に私から視線を逸らし、口を尖らせた。こいつ、意地でも言いたくないみたいだな。
「まあいいや。犬夜叉のためにもう少し側にいてあげるよ」
「…そうか」
「でもいつかは聞かせて。犬夜叉の気持ち」
「…絶対言わねー」
その言葉にムッときた。だから私は、相変わらず目を合わせようとしない犬夜叉の横髪を引っ張る。体勢が低くなった犬夜叉の頬に、私は一瞬だけ唇をつけた。そして彼の背中を思いっ切り叩く。
私は、覚悟しろ、と言い放ち、呆然とする犬夜叉を放置したまま仲間達の元に戻った。