「佳代!遠慮なくオレの胸に飛び込んでこい!」
「…突然どうしたの?」
「お前が泣いてるように見えたから、包容力のあるオレが優しく慰めようと思って…」
「うーん、悪いけど、あくびして涙出ただけだからね」


わたしがそう言うと、鋼牙は広げていた左右の手を腰にあててなにか考え始めた。
なにを考えているんだろう、と思って鋼牙を見ていると


「だけど抱き締めてやる!」
「わっ」


捕獲されました。


「ちょ、鋼牙、はなして」
「ん、話して?よし、んじゃ今日はオレと極楽鳥の熾烈な闘いを語ってやるぜ」
「そうじゃなくて、放して!解放してって言ってるの!」


鋼牙は自分のいいように解釈して行動してしまう。私が訂正しても、まあ気にすんな、とか言って笑う。…その笑顔が好きだからどうしようもない。

鋼牙は私を放したけれど、私の腕を掴んで崖のほうへと歩いていく。そして私を座らせた。目の前には森が広がり、下は、…落ちたら死にそうなくらい地面と距離がある。


「佳代!」
「ぎゃー!!」


後ろから鋼牙が勢いよく私に抱きついてきて、かなり驚いた。…落ちたら洒落にならない!


「何すんの鋼牙!」
「なんだよ、ちょっとは色っぽい声出せよなー」
「無理、つーかそんなの期待してたの!?それなら崖なんかに連れてこないでよね」


そっかー、と後ろから私を抱き締めたまま鋼牙はまた笑った。耳元で彼の声が聞こえて、なんだかどきどきする。…顔が見えなくてよかった。


「そういえばオレに語ってほしいんだったよな」
「は?いや、ちょ…」
「あの時俺は、極楽鳥が三匹も攻めてきたから死んだ仲間が持っていた刀で…」
「語らなくていいから!」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「え、…」


困る。さっきは、放して、とか言ったけど本当に放してほしいわけじゃなくて…その、とにかく困る!


「…鋼牙はどうしたい?」
「ん?オレはー…」


うーん、と鋼牙は唸った。そんなに考えるなんて何をしたいんだろう。…まさか色っぽいことですか?無い無い無い
そんなことを私が心配していると、鋼牙の額が私の左肩に乗せられた。


「やっぱ佳代と一緒にいられたらそれでいーや」
「…そう?」


なんだ、私も同じ。




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