初めて会ったときから惹かれていた。もう、すっごいタイプ。なんとかしてあの人を私のものにしたい、ってずーっと思ってたのに。


「今日こそ決着つけようぜ」
「けっ…望むところだ。蛮骨、てめぇ逃げるんじゃねーぞ!」
「ゔわー!!」
「ど、どーした佳代?」
「あ、お前は…」


敵だったんですか。




私と蛮骨って人が出会ったのは二、三日前のこと。犬夜叉達から離れたところで脳トレをやっていたら、丘のほうで何やら悩みこんでいる男を見つけた。

唸りながら、紙に筆を走らせては丸め捨てる、という動作を繰り返している。あんなに悩むなんて一体何を書いているんだろう?
少しだけ興味がわいた私は、その男に近寄って声をかけてみた。


「何を書いてるの?」
「手紙」


男はこちらを振り向きもせず、ただ一言そう答える。知り合いでもないのにそういう答え方をするなんて変わった人だな、なんて思いながら、更に尋ねてみた。


「誰への手紙?」
「殿様」
「殿様!?なんで殿様に?」
「…お前、うるせえ」
「あ、初対面なのに図々しいよね、ごめんなさい」
「…はー」


あ、今ため息ついた。ちゃんと謝ったのにそれはないっしょ!そりゃ私も悪いけど。


「ちょ、あんた失礼すぎ!」
「あ?」
「人と話すときは相手の目を見て話す、これ基本だよ!こっち向いて話せっ」
「…」


男の無愛想な態度にかなり腹がたった。まあ見知らぬ人に馴々しく話す自分もどうかと思うけど…
そっちが振り向かないなら私があんたの前に行く!


「え」
「…なんだよ」


男の顔をみて、わたしは心臓の高鳴りを感じた。だって、だって…めっちゃタイプ!


「か、っこいい!」
「…は?」


つい心の声が出てしまい、私は慌てて口をふさいだ。だけどそんなの全く無意味、男のぽかんとした顔は継続中。


「…あの、予想外でありまして、あれだ、私、正直すぎてすぐ心の声が出ちゃって…すみません!お願いだから今のは忘れて!」
「正直、か…」
「…はい」


しまった。私、かっこいいって思ったことをちゃっかり肯定してるし。アホか。正直すぎるわ。そんな自分に嫌悪していると、さっきまで無愛想だった男が私に清々しい笑顔を向けてきた。


「っはははは!なんだお前、おっもしれー奴だな!」
「え、あ、はぁ、ありがとうございます…?」


私の弁解がなぜかこの人にとって面白かったらしい。男は腹を抱えて笑っている。…失礼な。でもその笑顔にときめいちゃったから怒れない。自分、単純だな。


「俺は蛮骨。傭兵みたいなもんだ」
「わ、私は佳代。わけあって、仲間と一緒に旅してる」
「ふーん」


蛮骨の隣りに座り、そっと横顔を見てみる。綺麗な鼻筋、切れ長の瞳。…かっこいいなぁ


「俺、お前のこと気になる」
「へ」
「もう少しここにいろ」


そう彼は命令して、私の左手を握った。私は左手を見、蛮骨の顔を見、絡んだ視線をわざとそらした。
もしかしてこれ…チャンス?
勿論しばらくここにいます、と言いたいけど、そろそろ犬夜叉達と合流する時間になってしまう。くそ、脳トレなんかやらずにさっさと蛮骨に出会えば良かったわ。


「ちょっと時間ない、なぁ」
「じゃあ次会ったときにたっぷり話させてもらうから」
「…でも、また会えるかなんてわからない」


私がそう言うと、蛮骨は唇の片端をキュッとあげて笑った。嗚呼、やっぱりかっこいいなぁなんて思っちゃう。


「会える気がするから大丈夫だ。オレの勘は当たるんだぜ?」
「…じゃあ、信じる。またね」
「おう」







ってわけで、私と蛮骨は別れたわけだけど。まさか、敵として再会するとは…


「なんだ、犬夜叉の仲間だったのか。どーでもいいけど」
「どーでもよくねぇ!佳代にちょっかいだすな」
「まあ落ち着こうよ犬夜叉」
「黙ってろ佳代!」
「命令するな犬め!…あれ?」
「ば、蛮骨がいねぇ」


私達が喧嘩して蛮骨から目を離した隙に、彼は姿を消してしまった。
犬夜叉が私に背を向けた瞬間、後ろから口を塞がれ、抱き締められるように引っ張られる。


「わーっ!」
「蛮骨…佳代を離せ!」
「嫌だ。じゃあな犬夜叉ー」


蛮骨は私を抱えたまま人間兵器の銀骨に飛び乗って、行くぞ、と言った。そいつはぎし!と返事をし、四人と私を乗せて走り出す。


「くっ…待ちやがれ!」


犬夜叉は、奈落の分身に行く手を阻まれて私を追いかけることは出来なかった。








「佳代、お前のこと知りたいんだ。なんでもいいから話せ」


銀骨に乗っている私は、蛮骨の目の前に座らされている。緊張のあまり正座なんかしちゃったから足が痺れてきた…。がたがた揺れるから更に痛い。


「…蛮骨からどうぞ」
「はあ?俺が先に聞いたんだから、そっちから話せよ」
「いや、蛮骨から。さあさあ」
「いいや、佳代から!」


えぇい、しつこい!いや、私もそうだけど…
これ以上言い合うのが面倒だったから、私は蛮骨の問いに答えることにした。


「何が知りたいの?」
「そうだな…男の好みとか」
「はいはいはーい!大兄貴、俺は犬夜叉みたいなのが好みだぜー!かっわいいよな〜」
「蛇骨には聞いてねぇ」


蛇骨を冷たくあしらうと、蛮骨は再び私に視線を戻した。
いや、そんな真剣に見つめないで…さすがに照れる。なんて答えたらいいかわかんないから、とりあえず正直に伝えてみた。


「今目の前にいる人が好み!」
「…この女、銀骨のこと好きらしいぜ。趣味わりぃなー」
「ちげぇよオカマ!」
「っんだと女!」


蛇骨と睨み合いっこをしていると、私達の間に蛮骨が入りなだめた。蛇骨は何も言い返せず、銀骨の背中を蹴飛ばして私から離れていく。


「佳代」
「ん」
「俺も、そうかもしれねぇ」
「え?」


わけがわからず蛮骨に聞き返すと、彼の顔が耳元に近付いて、私にそっと囁いた。


「…会ってからずっと、お前のことばかり考えてた」
「は」
「お前みたいな奴、嫌いじゃねぇ」
「…ありがとうございます」


蛮骨は優しく笑うと、再びわたしを抱き締めた。睡骨達のほうをチラッと見ると、彼らは皆目をそらしてここに居ないようなオーラを出そうとしていた。
なんだかおもしろかったから笑ってたら、このまま側にいてくれ、って、彼にまた囁かれた。

私もこのまま一緒にいたいよ。




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