「俺は佳代をよく理解している」
「…俺はこいつと長くいる!」
「時間なんか関係ねぇ」
「黙れ痩せ狼、さっさと消えろ!」
えーと…今日もいい天気ですね。青空が広がり、冬の寒さがまだ残るけれど可愛らしい蝶々が飛んで…ああ、すてき!
「佳代、俺を愛しているよな?」
「どうだろうね」
「痩せ狼なんか嫌いだろ!?」
「そんなのどうでもいいでしょ」
「全っ然よくねぇ!」
「素直に言えよ佳代」
…朝っぱらからくだらないやり取りをしているのは、犬と狼…間違えた、ツンデレと俺様…また間違えた。えーと、犬夜叉と鋼牙だ。
出会う度にこの二人は喧嘩をして、いつも同じようなことを私に質問してくる。正直、めんどくさい。
「てめぇみたいな臆病野郎は洞穴にでも隠れてな」
「てめぇみたいな犬っころは三回まわってワンと鳴いていろ」
「なんだと!?」
「あーもう落ち着きなよ犬夜叉。さっきからうるさいってば」
こいつら小学生みたい…。
あ、弥勒様なんて呑気にお茶飲んでいるし。珊瑚ちゃんは武器の手入れをして、かごめちゃんは七宝と喋って…。うん、みんな見事に犬夜叉と鋼牙をシカトしちゃっているね!
「んじゃ私も武器の手入れを…」
「ちょっと待て佳代!」
「…どうしたの犬夜叉」
この状況を無視しようとしたら、犬夜叉に引き止められた。腕を掴まれたかと思ったら、そのまま犬夜叉の胸へ引き寄せられ。そしてぎゅっと!…待て待て待てーい!
「てめ、佳代に何してんだ」
「と、とにかくだな!佳代は俺のもんだから痩せ狼の入る隙は、ね、ねぇんだよ、ばーか!」
「…犬夜叉、慣れないことしちゃっているから顔真っ赤だよ?」
「佳代!冷静に対処してねぇでそいつから離れろ!」
離れろと言われても。力強く抱き締められているし、逃げようとするのも無駄だろうし…私には為す術がない。
「鋼牙、悪いけど私は非力な女の子だから無理」
「何?それなら早く言え!ちょっとは嫌な態度くらい見せなきゃわかんねぇだろ!」
「え、わっ」
冗談で「非力な女の子」と言ってみたけど、否定されず受け入れられてしまった。そして何故か鋼牙は、犬夜叉を爪で引っ掻こうとした。それを犬夜叉は、私を抱きながら避ける。待て待て待てーい!!
「こ、鋼牙、もし私まで引き裂いたらどうすんのよ!」
「大丈夫だ、そんなへまはしねぇ。俺は絶対犬っころだけを引き裂くからな!」
「いやいやいやいや」
こいつ、馬鹿だ!正真正銘の馬鹿だよ!
犬夜叉が私の耳元で、「大丈夫だ、全部避ける」と言っている。うん、それよりもまずは私を放しなさい。
「っ、いてぇ!」
犬夜叉の腕を強く噛み、締め付けがゆるんだ隙に私はやつから逃げた。よし、上手くいった。
「よくやった、佳代!」
「え」
犬夜叉からやっと逃げられたのに、今度はアホ狼に抱きかかえられてしまった。抵抗しても全く無意味、そのまま私は連れ去られる。
「ぎゃー!人さらいー!」
「ばかやろう、今から二人の新しい生活を始めるんだ」
「何言ってんのあんた!?」
「待ちやがれ痩せ狼!」
四魂のカケラを足に仕込んでいる鋼牙に犬夜叉は追いつけない。どんどん小さくなっていく犬夜叉の姿を、私はずっと見ていた。
「よし、佳代、来い!」
「…やだ」
遠い遠い川原まで連れてこられて、鋼牙はやっと私を降ろしてくれた。やつが隣りに座るように促してくるけど、私は素っ気ない態度で返す。
「来いってば」
「いやだ」
「なんでだよ」
「…あのさ、鋼牙のそういう強引なとこは別に嫌いじゃないんだけど」
「けど?」
「…軽々しいというか、信じられないというか」
会うたびに、好きだの愛しているだの言い寄ってきて、なんだか本気じゃないように思える。鋼牙を好きだと素直に伝えるのが怖い。
「…わかった、ちょっと待っていろ!」
「は?…え、ちょっと!」
鋼牙は何か思い付いたらしく、私を置いてどこかへ行ってしまった。…あのやろう、連れ去ったくせに放置するとは。帰ってきたらぶん殴ってやる。
日が暮れ始めたけれど、あの馬鹿はまだ姿を見せない。…犬夜叉達も、来ない。なんだかとても寂しくて涙が出そうになったけれど、私は我慢をした。こんなんで泣くもんか。
「佳代!」
「……」
泥まみれで帰ってきた鋼牙、汗だくの手で何かを私に押しつけてきた。
「わ…どうしたの、これ」
「言葉で伝わらないなら、行動で示さねえとな」
それは、真珠の髪飾りだった。ひとつだけ付いている純白の核、すごく上品できれい。
「…こんな短時間で真珠なんてよく見つけたね…」
「ばーか、佳代のために必死で調達してきたんだぜ。ほら、つけてやるから下向け」
言われた通りにすると、鋼牙はその髪飾りを私の前髪にさした。そしてじっと見つめる。その表情はいつもと違って真剣に思えた。
「佳代、愛している。俺の女になってくれ」
「…。仕方ないな、こんなことされたら断れないでしょ」
「素直じゃねぇやつ」
頬を拭われて、その時初めて自分が泣いていることに気付いた。嬉しくて、笑顔がこぼれていることにも。ああ、私は鋼牙に愛されていて幸せだ。
end.