「佳代、佳代!起きろ!」
「何…」
「そろそろ戻るぞ」
「ひとりで帰れー!」


久々に現代へ帰る余裕ができたから、今日は自分の部屋でのんびりしよう…と思っていたけれど。犬夜叉が迎えにきちゃって、しかも深夜三時だというのにヤツは耳元で話しかけてくる。寝ようとしても無理。


「犬夜叉、お願い、眠たいの、ね、わかるでしょ」
「ああ、眠そうだ…ま、そんなの知ったこっちゃねぇけどな!」


…なんて自己中な奴なんだ、と思ったけれど、口喧嘩をする気力がない。とにかく無視して、頭まで布団をかぶることにした。


「てめぇ、ふざけんなよ」
「……」
「オイ、佳代…」
「……」
「……」
「……」


あれ、静かになった。
諦めたのかと思い、布団をそっとどけて犬夜叉のほうに目をやる。


「…今日だけだからな!明日になったら帰るぞ」
「あ、ありがと…」


まだ怒っているみたいだけれど、犬夜叉は黙ってベッドの横に座った。そして、目を瞑る。それを見た私は、なんだかほっとしていつの間にか眠ってしまった。





「うー、…ん?」


部屋に差し込む朝日が眩しくて目を開けてみたら、視界には赤色が広がっていた。…何、これ…。私は数秒放心状態になったけれど、銀髪が目に入ってようやく事態を理解した。


「ぎゃああああ!!」
「な、なんだ!?」


私の声に驚いた犬夜叉が、ベッドの中から飛び出した。そしてフローリングにしゃがみこんでじっと私を見る。


「…んだよ、何もねぇぞ。驚かすな」
「あるわよ!なんで私と一緒に寝て…、ハッ!まさか、変なことしようとしたんじゃ…」
「ば、ばか、んなことしねぇよ!」


慌てて否定する犬夜叉、…こいつは弥勒様じゃないんだから襲ってくることは多分ないかな。だけど、勝手にベッドに入られたのは気に食わない。


「…なんとなく、だな、お前の寝顔見たら俺も眠たくなって」
「は?」
「布団が柔らかくて、寝心地良さそうだと思った」
「…だから寝たの?」
「そういうことだ」


何を偉そうに言ってんだぁぁ!…とチョップをかましたくなったけれど、とりあえず座り直して犬夜叉と向かい合った。


「あんたね、罪悪感とかなかったの?私が寝ているのに布団に入るなんて…」
「なかった!」
「コラァァァ!!」


きっぱり言いやがった!…というわけで、今度こそ必殺脳天割りを食らわしてやった。犬夜叉はまるっきり油断していたみたいで、頭を抱えて身体を震わせている。


「な にすんだ、よ…」
「あんたが悪い!」
「さ、最初はな、ちょっと横になろうと思っただけだ!お前の…」
「ん?私?」
「…いや、なんでもねぇ」


こいつ、変なところで濁しやがって。私の怒りは鎮まるわけがなく、犬夜叉のはっきりしない態度には更に腹が立つ。沈黙が続き、犬夜叉が再び口を開いた。


「…お前、ここで香を焚いたりしてんのか?」
「そんな洒落た趣味ないわよ」
「……」
「……」


また、だんまり。いい加減にしろよと思いつつ、とりあえず布団を整えて顔を洗うために部屋を出る。


「お、おい待て、まだ怒ってんのか?」
「当たり前でしょ」
「ちゃんと理由言ったんだからもういいだろ」
「いいわけあるかー!」






顔を洗って部屋に戻ると、犬夜叉がベッドの上で大の字になって寝転がっていた。天井を見つめ、黙ったまま。何をしたいのかよくわからないけれど、とりあえず私は出発のために荷物をまとめようと、クローゼットに目を移した。


「え、わ、ぎゃー!」


すると背後から急に腕を引っ張られ、体勢を崩した私はそのまま倒れ込んだ。私の視界には、また、赤。


「な、何すんの」
「…お前の匂い、落ち着く」
「えっ」
「このまま…」


私の背中に回された犬夜叉の手に力が加わる。強いようで、優しいようで。犬夜叉の体温を感じて、身体中熱くなってきた。だけど、今度は押し返そうともベッドから追い出そうとも思わない。私もこのままでいたいから、捕獲されたままでいてあげるよ。



end.




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