甘い、 | ナノ
オフの日の昼過ぎ。
甘い匂いにつられて合宿所のキッチンを除くと、可愛らしいそこには似合わないツンツン髪がなにかを作っていた。
「豪炎寺?何してるんだ?」
「風丸か。円堂が昨日どうしても食べたいって言ってたから」
そういって見せてくれたのはとても美味しそうなパイだった。
生憎こういった物には疎く、どんな種類のものかはわからないけど。
「豪炎寺も大変だな」
「まあな…でも料理は好きだしな」
そういえばそうだな、と笑っていると、先に完成していたらしいもう一つのパイを発見した。
ミニサイズのそれはとても可愛らしい。
「このちっちゃいのは何か違うのか?」
「ああ、これは甘さ控えめだ」
なるほど。
「…でもわざわざなんでだ?」
俺の続けざまの疑問にもすらすらと答える豪炎寺。
「これは今食べる用だ。」
「なるほど。」
本日2回めの納得の言葉を口にする。
すると豪炎寺がにやりと笑ってこちらを見つめた。
この笑いは、
「それに、」
豪炎寺の言葉が俺の思考が答えを出すのを遮った。
きっと漫画ならば頭上にクエスチョンマークを浮かべているであろう俺の手をとり豪炎寺は言葉を続けた。
「甘さがほしいなら」
ちゅ。
「お前の方が甘いしな 」
「…っ!」
戸惑う俺の唇をまたぺろりと嘗めて、豪炎寺はさぞ満足そうに笑った。
「風丸、もう一口」
(甘い、君)