残念ながらべた惚れ | ナノ


「はぁ…ドロドロだな…」

監督がいきなり提案した泥沼での特訓。
いつもと違う、しかもとても動きにくい泥の中での特訓は思った以上に体にこたえた。
疲れ果ててシャワー室に行くのすら億劫に感じるがこの格好では寝るどころか合宿場内を歩き回ることさえ許してもらえないだろう

「疲れた…」

周りの皆も同じようなことを言っているのだろうが、疲れ果てて自分の声以外ろくに気にも留められない。
一度それぞれの部屋に戻って着替えをとりに行くことになって、俺は自室に近い方の階段を上る。
元気な円堂はまだ練習しているが、流石にヒロトみたいに「俺も!」とは言える状態ではなかった。
さっさと着替えを取り、風呂場へ向かう鬼道とすれ違う。しかしろくに挨拶も出来なかった。
これは早く体を綺麗にしてベットにダイブしないといけないなと、何度も同じことを考える。
そのとき、踏み出した先にあるはずの階段がずれていて(実際ずれているのは自分なのだけど)大きく体が傾いてしまった。

「あ…」
「風丸!!」

誰かがガシッと俺の体を抱いてこちらに引き寄せてくれた。
あまりに一瞬の出来事で初めは何が起こったかよく分からなかったが、
恐る恐る顔をあげてみるとそこには豪炎寺の綺麗な顔がいっぱいに写っていた。
よくよく考えれば俺の隣には豪炎寺しかいなかったから誰かなんて決まりきっていたんだけど。ちょ、近い。

「大丈夫か?」
「あ、…うん」
「気をつけろよ」

そういってすっと離れる豪炎寺の熱。急に寂しくなる。
別に、豪炎寺と居たいって訳ではなくて、豪炎寺の熱が恋しいだけだって、自分に言い聞かせようとして、
それって結局豪炎寺じゃないと駄目だってことじゃないかって気づいて、

…ああもう。

伸ばした手は予想通りの位置、豪炎寺の服の裾をつかむ。
びっくりしたような表情の豪炎寺と目が合った。
豪炎寺の熱から離れたばっかりだって言うのに顔が異常に熱い。

「もっと」
「!…風呂はいいのか?」
「後で一緒にはいればいいだろ」
「…まあ、そうだが」

いつになく我侭を言ってしまった気がする。
でも柔らかく微笑んでくれる豪炎寺に自分もつい微笑んでしまい、謝罪するタイミングを見失ってしまった。

「顔、熱いぞ」
「う、うるさいな」

指摘されると余計に熱が上がるんだからそんなこと言わないでほしい。
でも分かってて言ってる奴にそんなこと願っても意味は無いだろう。
もう一度体いっぱいに熱を感じて、俺は静かに眼を閉じた。




残念ながらべた惚れ


逃げようとすら思わないくらいに。



「何してるんだ豪炎寺」
「あ、鬼道…風丸を抱きしめてる」
「そういうことを聞いているのではなくて…階段のど真ん中でなにをしているんだと…」
「仕方ないだろう風丸が抱きしめろって言ったんだから。見ろこの寝顔…天使だぞ天使。
 あ、やっぱり見るな。俺だけの寝顔だ。」
「(めんどくさい奴だな…)嘘つけ」
「!…まあ、そういうことにしておこう」
「?」



リクエストの「豪風練習後甘ラブ」でした!
甘ラブというよりかは風丸さんの我侭祭りですが!
リクエストありがとうございました!
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