恐らくはただの嫉妬 | ナノ
週末、俺は豪炎寺の家に泊まることが多い。
今日も例外ではなくて、いつもどおりに豪炎寺の家に入る。
ついこの前までは何の音もなかった家が、今は元気な足音と可愛らしい笑顔でいっぱいだ。

「風丸おにいちゃん!」
「夕香ちゃんこんにちは」
「こんにちは〜!」

トタタタと夕香ちゃんがこちらに走ってきて、ぽすっと俺に抱きつくと
豪炎寺は少しむすっとした顔をして夕香ちゃんを抱き上げた。
そんなに豪炎寺に大切にされている夕香ちゃんが羨ましい反面、
これから夕香ちゃんが大人になったときの大変さがなんとなく予想できてしまい少し笑ってしまう。

「夕香、風丸おにいちゃんはこれから俺と宿題するからお部屋でいい子にしてるんだぞ」
「はーい!」

ぽんぽん、と豪炎寺が頭を撫でてやると夕香ちゃんは嬉しそうに笑って、
勉強が終わったら一緒に遊ぼうね、と俺と指きりをして夕香ちゃんはまた可愛い音を立てながら走っていった。
可愛い妹がいて良いなあ、と豪炎寺に言うと豪炎寺はまたもやもやした顔をしていた。
さしずめ可愛い妹を褒められたのは嬉しいけど可愛いと思われていることが複雑…みたいな。
そんな豪炎寺を素直に可愛いなあと思ったがそんなこというと必ずなにかしら仕返しをされるので心にしまっておくことにした。

豪炎寺の広い部屋に入り、二人で勉強道具やらお菓子やらを広げてお互いの分からないところを教えあう。
俺は理数が苦手。豪炎寺は文型が苦手。
なんだかお互い支えあってる感じがして少し幸せだ。
暫くしてお互いの苦手分野の宿題を片付け終わり、つづきは明日、という豪炎寺の言葉でやっと開放された気がしてぐいっと大きく伸びをする。
そこで夕香ちゃんとの約束を思い出した。

「あ、豪炎寺、夕香ちゃんのところ行こうか。」
「何故だ?」
「だってさ、さっき勉強が終わったら遊びに行くって約束したじゃないか」
「ああ…だがもう夕香は寝ていると思う」

そういえばもう小学生低学年、なんて小さい子が起きていられる時間ではない。

「じゃあ明日遊ぶか」
「…」

なにかおかしい事でも言っただろうか。
豪炎寺はまた、さっきのようなもやもや、という表現の似合う表情をしていた。
なんだろう。そんなにも夕香ちゃんを捕られたくないのか。
なんだか俺なんかどうでも良いみたいで、少し嫉妬してしまう。
全くこいつのシスコンも筋金入りだなと思った瞬間、俺の体は急に前に引っ張られた。
引っ張った張本人である豪炎寺の腕の中に納まったそのままの状態で豪炎寺のベッドに俺たちはダイブした。

「うわっ!」

なにするんだよ、と文句を言おうと顔を上げたらそこには豪炎寺の綺麗な顔があって、
ああ、やっぱり格好良いなあと頭が考えている間に俺の口は豪炎寺に塞がれていた。
優しくて甘いキス。夢心地で受けていると俺の唇をペロリと舐めて、豪炎寺が口を離した。
名残惜しい気もするけど、そんなこと口が裂けても言えるもんか。
どうした?と問いかける前に豪炎寺が口を開いた。

「…ずるい」
「え?」
「夕香ばかり、ずるい」

豪炎寺は拗ねたような顔で、そう呟いた。
…何だって?

「俺だって風丸を抱きしめたいし手だって繋ぎたい」
「はあ?…もしかして、さっき俺が夕香ちゃんに抱きつかれたとき…」
「風丸が嫌がらないから、嬉しいのかと思って」

なんて奴だ。
どうやらさっきからのもやもやした表情は俺に向けられていたものだったらしい。
でもそう考えると、少し、いやすごく嬉しい。
嬉しい感情を表情に出さないようにしていると豪炎寺がぎゅうと抱きしめてきて、
豪炎寺の布団から豪炎寺から俺の好きな匂いがふわりと香って、
俺のまぶたは急速に重くなって、
おやすみ、とまぶたにキスが落ちたのがその日最後の記憶だった。
今日はいい夢が見れそうだ。

恐らくはただの嫉妬
まさかここまでとは。


Thanks!確かに恋だった

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