本当は味なんて二の次なんだ | ナノ
「なあ豪炎寺、好きな食べ物ってあるか?」


それはついさっき円堂とヒロトに聞かれた質問でもあった。
あまり深く考えたことが無いからさっきは『ない』と言ったが今聞いてきているのは愛しい恋人だ。
真剣に考えようとしてふと気づいた。
そういえばさっき、明日の朝飯を風丸が作ってくれるとか。
なるほど俺の予想が当たっていたら嬉しいことに明日は今俺が言った食べ物が朝出されるようだ。
ここは真剣に…といっても本当に好きな食べ物と言っても漠然としか思い浮かばない。
さてどうしたものか。


「あっ…あんまり難しく無いやつで頼むぞ?」
「分かった」


難しくないもの。風丸は料理あんまりしないからなとか。そういうことを考えて思いついたもの。
卵を割って牛乳と塩胡椒とかきまぜて、フライパンに流し込みあとは箸で混ぜるだけ。
俺も好きなほうだし何より手間がかからない。


「スクランブルエッグとか」
「!本当か?」


肯定の仕草をするとホッという擬音がにあうようなそんな笑みを浮かべて。


「明日楽しみにしてろよ」
「ああ」


やはり明日のことだったか。
早く明日にならないかな、なんて子供じみた考えだが本当に楽しみだった。
さっさと寝ようぜと急かされ入った布団はすでに風丸の体温が行き渡っていて心地良い温度だった。
胸元に擦り寄ってきた風丸の背に手を回し、部屋の電気を消して、小さくキスをした。


「豪炎寺ー朝だぞー」


ユサユサユサと体が揺れる。
うっすらと目を開ける前真っ先に五感が感じ取ったのはふわりと漂った香りだった。
体の向きを変え起こしてくれた風丸を見上げると風丸は俺のエプロンを着けてこちらを見ていた。
いつもは俺が起こしているからこんな姿滅多に見られない。
たとえるなら新婚生活…駄目だ馬鹿らしい。
ゆっくりと上体を起こすと少し得意げな顔と目があった。


「ほら、早く起きろよ!結構上手く出来たぜ!」


その言葉で段々と覚醒してきた脳がこの香りがなんなのか理解できた。
そして理解すると同時にどうしようもない嬉しさがこみ上げてきた。
やはり現状を一言で説明するとすれば新婚夫婦でいいんじゃないだろうか。いいに決まってる。
はやくはやくと水仕事のせいかもともとの冷え性のせいか分からない冷たい手に手を引かれて台所へ行く。


「おお、」
「どうだ?結構上手そうじゃないか?」
「味見は?」
「一応したぜ…口に合うと良いんだけどなあ」
「ありがたくいただきます。」
「ん!」


さてまずは一口。風丸の視線が肌で感じ取れるほどに刺さっていたが
その視線にこめられているのはたまに感じる嫉妬とかそういうものではなくとても可愛らしい感情だった。
期待にこたえるべくスクランブルエッグを口に含む。うまい。


「うまい」
「ほ、本当かっ?」
「ああ、うまいぞ」


思ったとおりのことを口に出せばふにゃりと笑顔になる風丸。
こんな可愛い顔が朝から見れて(しかも俺に対してだ)つくづく俺は幸せ者だと思う。


「よかったー。間違えてちょっとだけ砂糖入れちゃったんだけど…わかるか?」
「え、…いや、分からなかったぞ」
「ははっよかった!」
「ははじゃないだろ…ちゃんと書いてあるだろ?」
「え、本当か?俺容器の色で覚えてたからどっちがどっちかわかんなくなっちゃってさー」
「舐めれば分かるだろ」
「あっ…そうか」


アハハ、と笑う風丸を見ているとあまり料理は頼まない方がいいかもしれないと思った。
だがこの笑い声もも幸せそうな顔も全部含めての「料理」だと考えると俺は今世界で一番上手いものを食ってるんだなあと感じた。
でも最後にもう一つ。


「風丸、こっち来て。」
「ん?なんだ?ごうえ…」


暫くして塞いでいた口を離してやると真っ赤になった風丸に太腿を蹴られたがまあいつものことだよな。


本当はなんて二の次なんだ


「豪炎寺先輩!好きな食べ物調査なんですけど、何か好きなものありますかっ?」
「スクランブルエッグ」
「スクランブルエッグですかーちょっと予想外です。」
「豪炎寺前は無いって…」
「世界一美味いスクランブルエッグを食べたからな」
「???」
「フフッ円堂君にはまだ分からないんじゃないかな」
「なんだよヒロトまでー」



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