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朝を迎え出発の準備を整えた全員を見渡しながら声を掛けた後、揃って宿屋を後にする。
最後に歩き出したルノアが鞄の中から本を取り出し何かを確認すると1人納得したようにパタンと表紙を閉じているのを目にする。
それが昨晩渡した栞だと分かり、嬉しさと同時に心が和んだ俺は朝から機嫌が良かった。

セッツァーに従いコーリンゲンの村の西側にある海岸沿いを歩いていくと、木々の間に大きな石を削り取ったような墓石が見えてくる。
墓に向かって懐かしむように声を掛けるセッツァーが岩壁のくぼみ部分に手を差し込む。すると大きな音を立てながら目の前に入り口が現れた。

地下へと続く薄暗い階段を降りていくと、そこは入り口からは想像も出来ないような建造物が広がっていた。まるで城を思わせる内部を迷う事無く進んでいくセッツァーは最奥まで辿り着くと何ともいえない表情を湛えていた。
中央に置かれた紫の布に包まれる棺を前に、まるで壊れ物を触るような手付きで触れるセッツァー。俺達には聞こえない位の声で何かを呟き、最後に小さな笑みを残して奥に続く階段を下っていった。

地下深く続く石段を降りながら、誰に言われるでもなく過去を語るセッツァーの声に耳を傾ける。親友でもありライバルだったダリルという女性と過ごしていた日々は、セッツァーにとって色褪せることのない美しい思い出だというのが伝わってくる。

そんな日々が、不意に終わりを告げてしまったのだ。

世界で一番近く星空を見る女になるという言葉を最後に姿を消してしまった彼女。待ち合わせ場所に現れなかった日から一年後に壊れた飛空艇を発見したセッツァーは、その機体を整備し、大地に眠らせたと話してくれた。

「羽を失っちゃあ世界最速の男になれないからな。また夢を見させてもらうぜ、ファルコン」

舵を力強く握りエンジンを始動させたセッツァーは出力全開で地上に向けて飛空艇を発進させる。地下から地上に向かうまでの加速は恐ろしいほどに早く、海中を切り裂くようにして大空へと飛び出していった。

薄暗い空が広がる世界をもろともせずに、放たれた矢の如く颯爽と駆け抜けるファルコン。その機体に乗っているとこれからの未来に希望を抱くことが出来た。

「今度は俺達の夢を」

「瓦礫の塔にいるケフカを倒しに行きましょう!」

セリスの言葉を受けて、ファルコン号で塔の上空まで向かい乗り込めるはずだと話を付け加える。世界が崩壊して一年、これでようやく俺達が塔に行く為の手段を確保することが出来た。仲間をさがそうと声を掛けるセッツァーの言葉に頷き、俺は湧き上がる思いを声に出してその場にいた全員に伝える。

「そう俺達にもまだ夢はある。いや夢をつくりだせる!」

過去を変えられはしないが、この先の未来は幾らでも変えられる。
暗い世界から以前の光り輝く美しい世界に戻れるように俺達はケフカを打ち倒さなければいけない。

思いを新たに飛空艇を進めていると、一羽の鳥が機体の側を飛んでいく。
それに気付いたセリスがセッツァーに後を追って欲しいと願い出た。
仲間が待っている気がすると話す彼女の予感に従い俺達は白い鳥の姿を飛空艇で追いかけていった。

目的の場所に到達するまでの間、それぞれが自由な時間を過ごしていた。船内の様子を一通り確認した後に甲板に出てみれば、船尾に佇むルノアの姿があった。セッツァーと再会を果たし飛空艇を手に入れた今、彼女は一体どんなことを口にするのだろう。

今すぐにでも瓦礫の塔に向かいたいと願うだろうか。

どうなるかを考えながら様子を窺いつつ声を掛けると、ルノアは自分から塔に乗り込みたいとは言わなかった。

「何か考えている事でもあるのか?」

「…空を飛んで距離が近くなったせいか三闘神の力を余計に強く感じる。今のままでは及ばないかもしれない」

「そうだな。魔導を生み出した始祖ならば人智を遥かに凌ぐ強さだろう」

「あとは、未だに魔石を見つけられていない。やっぱり…探したい」

身に着けている魔石を握り締めながらルノアは少し寂しそうな表情を浮かべる。探すという言葉の後ろにあるものが、実体として存在していない仲間だからなのだろうか…。

俺が協力する事を伝えれば、ありがとうと感謝の言葉を口にする今の彼女からは、過去のように全てを省みず単独で突き進むような危うさは感じられない。そればかりか、自分の考えを話したり周りに配慮する様子を見た俺は、今に乗じて彼女にこんなことを聞いた。

「君の夢は?」

その一言に口を閉ざしてしまった相手だったが、暫くして遠くを見つめながら“魔石になった仲間を探し、ケフカを打ち倒したい”と呟くように答える。
確かに叶えたい一つの事ではあるが、俺が聞きたかったものではなかった。

やはり彼女の到達点が未だにそこから離れないという事は、俺の見たい未来はまだまだ伝わっていないようだ。
気付いてくれるのがいつかなんて分かりはしないが、それでも俺は伝えることの出来ない淡い想いを織り交ぜながら彼女に色々な物事を教えていきたい。

見える部分が変わっていなくとも彼女の内側では何かがきっと変わっているはずで、分かってくれると信じているからこそ俺は諦めずこのまま傍に居続ける、…そう思いながら今も彼女の隣に立っているんだ。


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bkm

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