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「夜更かしは程々にしないとな」

「・・・・・・・・・・・・・」

朝食を食べる俺の目の前で、ルノアが隠すようにあくびを連発する。
数日前に買った本を読み終えた彼女は、買い足した他の本も全て読んでしまったらしく、徹夜の影響から朝方になって睡魔に襲われているようだ。

店から出た後、自分は町の人たちと今後の建て直しについて話をしに行く予定だとルノアに伝えて、それと同時に一枚のメモを差し出した。

「アイテムについての説明は覚えているか?」

「ええ、大体は」

「じゃあ、ここにある物を頼んでもいいか?きっと明日には船で出発できる筈だ」

「分かった」

「もし見つからない物があったら後で一緒に行こう」

頷いたルノアに落ち合う場所を部屋だと伝えて、俺は港近くにある建物へ向かって歩いていく。集合していた人々とこれからどのようにして町を立て直していくかなどの提案をしながら、他の町の様子などについても色々と情報交換をすることが出来た。

内容のある交流が出来たのは良かったが、思っていた以上に話し合いが長引いてしまい昼食の時間はとうの昔に過ぎていた。もしかするとルノアは1人で食事を済ませたかもしれないと思いながら部屋へ戻って中に入るが、何処にも彼女の姿は無く置手紙の様なものも無かった。

もしかすると、本を買いに行った可能性もあると考え、以前立ち寄った露店まで足早に向かい店主に声を掛けた。

「すまないが、フードを被った人物が本を買いに来なかったか?」

「フード……ああ!そういえば居たな」

「いつ頃だ?」

「確か昼前ぐらいだった気がするけどなぁ」

時間があまりに経過しすぎて相手が何処に居るのか検討がつかない。他に考えられるものはないか思案をめぐらせていると、店の主がそういえばと何かを思い出したように話してくれた。

「南の大陸から来る筈の物資がモンスターに襲われて自警団が応援を募ってたんだよ」

荷物を運んできた一人が町まで逃げてきて助けを求めていたと店主は説明を付け足す。その時に武器を持っていたルノアに声が掛かり、救助に向かったという事らしいのだ。

店主に礼を伝えてすぐに町の入り口まで向かい様子を確認する。今の段階では目視できる範囲に姿がないということは、蛇の道を進んでいる途中なんだろう。戻ってくるのをただ待っている事は出来ないと、装備を整え大陸を南下していく事を決めた。

以前通った記憶が合っているなら途中で何箇所か砂漠化している所があったはずだ。荷車が通るとなれば、そこが一番の問題になると考えながら砂地を進んでいくと、目を凝らした先に小さな影のようなものが見えた。
砂地で体力を奪われない歩き方をしながら着実に距離をつめていくと、そこには荷車と平行しながら歩く人の姿があった。

見つけられたことに一安心しながら近づいていけば、俺に気付いたルノアが驚いたように“どうして”と声を掛けてきた。

「買い物にしては時間が掛かり過ぎだと思ってな」

「伝えるべきだとは思ったけれど、急を要したから」

「気にしていない。それより大丈夫か?」

到着したときには既に数名が亡くなっていて、荷車も破損していたそうだ。台車を直してから砂漠を進んでいるが、壊れているせいもあり思うように動かず立ち往生している状態なのがわかった。

埋まる砂地を細い車輪で進むのは容易でない事を伝え、今あるものだけで効率よく進めるために荷車の足回りを改造することにした。その間、襲ってくるモンスターをルノアに任せ、自分は目の前の作業に集中し続ける。
ようやく砂地に対応できるだけのものを作り終えたあと、自警団が乗っていたチョコボにそれを牽引させた。

颯爽と進む荷車に満足していると、周りの人々が口々にお礼を伝えてくる。慎ましく感謝を受け取りながら先へと進むように促せば、今度はルノアの視線がこちらに向いた。

「どうした?」

「凄いなと思って…」

「それぞれ自分の役割に徹したんだ。俺は修理で、ルノアは戦闘。そうだろ?」

だから上手くいったと話せば、彼女は少し嬉しそうにしながら言葉を返してくる。順調に進む荷車を護衛しながら歩いていると、自警団の一人が列を離れ身を屈ませる。
様子を見ると毒に侵されている事に気付きアイテムを渡しながら処置していると、前方から悲鳴が聞こえた。砂地から飛び出してきたモンスターに気付きルノアが向かうが、立ち止まっていたせいで想像以上に距離が離れていた。

応戦する自警団員の背後に現れた敵を倒すには到底間に合わない状況で、ルノアは咄嗟に魔法を詠唱し、襲ってきたモンスターを見事に蹴散らしたのだった。

氷魔法の名残りが砂地に舞う中、吹いた風にルノアのローブが煽られて隠していた顔が露になる。それと同時に、この場に居た人々の醸し出す空気が変化している事に気付く。

彼女を…ルノアを見る目が今までと変わった。
そういう事かと察した瞬間、俺はすぐさま自警団達に砂漠を越えるように指示し、“助けられた”ことは変わらない筈だと付け足した。

砂地に佇むルノアはいつものようにフードを目深に被りながら、荷車が離れるまでそこから動かずに沈む太陽を見つめ続ける。その背中に声を掛けようとしたのだが、俺が話すよりも先に相手は気にしていないと呟いてみせた。

俺が始めて魔法を見たときも、先ほどの者達のようにティナの事を見ていたのかもしれない。魔法の存在を知っていたから理解することができたが、普通に暮らしている者たちには未知の力だ。
それを突然目の当たりにすれば、こうなってしまうのも分かっていた筈なのに…。

「人々は魔法を知らない。分からないから怯えてしまうんだ」

それでもルノアは助けるために魔法を使った。
こうなるかもしれないと分かっていながら行動した。
町中や食事の時ですらフードを被っていたのも、きっと魔法と同様に稀な髪色を隠すためだったんだろう。

けれど。

「無理に隠す必要は無いんじゃないか?」

逆を返せば、それほどまでに人を惹きつけるものを彼女は持っているという事だ。
魔法は力。今を戦い抜くにはどうしても必要なもの。
それに容姿は持って生まれたものだ。

今の混沌とした環境で他人の都合に合わせて自分の持っているものを隠すのはおかしいし、何よりもこう思えた。

「勿体無いんだ」

「…何が?…意味が分からない」

困惑している隙をついて相手の纏っているローブを取り去れば、まるで流れる水のような髪が輝くように風になびく。瞳の色や顔立ちも全部が素敵だと感じるからこそ、素直な気持ちが言葉になって出たんだろう。

「君は綺麗だ」

「――――…!?」

「隠すことなんてない」

俺の言葉を聞いたルノアは視線を泳がせ酷く狼狽しながらそれでも俺からフードを取り返そうとする。奪われないように遠くに飛ばして魔法でそれを燃やせば、相手は当たり前のように怒るから、納得してもらうための理由を付け足した。

「相手と会話をする時に顔が見えないのは不便なんだ」

「何を今更…ッ。声が聞こえているなら問題ない!」

「表情も相手を理解するには大事な要素。俺の知りたいと思う気持ちを奪うつもりか?」

だったら知識もまた知りたいと思う気持ちの筈だと、本を読むことを批判すればルノアは愕然とした表情で俺を見つめる。如実な反応が可愛くて笑ってしまいそうになるのを隠そうと町に向かって歩き出せば彼女もまた急ぐようにして足を進めた。

「本もローブも先に買えば何の問題もない…ッ」

「なる程。君は姑息な手段で純真な心を踏みにじるのか」

「そんな事は言っていない!!」

走り出した彼女は俺との距離を作ると、急にこっちに振り返りぶっきらぼうな声音で咆えるように答えた。

「…本は買う!!だからそれで平等だ!!」

つまり、ローブは買わないから知る権利は奪うなということだろう。
知識と素顔のどっちが大事か、彼女の中では本になったという事のようだ。

「好きなだけ本は買ってくれ。だが明日は出発の日だぞ!」

ふんと鼻を鳴らす音が聞こえてきそうなくらいの切り返しを見せるルノアは、町へと向かって1人でスタスタと歩いて行く。どのみち露店で引っかかって動かなくなるのは分かっていたから急いで追いかける必要なんて無い。

それよりも明日、彼女が起きられるようにどうにかして早く寝かせるかの方が問題だと思いながら俺は後をついて行ったのだった。


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