EP.78
セッツァーに怒鳴られて、兄貴に励まされた後、俺はガウと一緒にすぐさま飛空挺を出発した。手始めに、ここから一番近い場所にあるマランダっていう町を目指すことにしたんだ。

町の中を見てみると、あちこち帝国兵だらけ。しかも、暇を持て余しているのか犬の喧嘩勝負に賭け事をしながら遊んでいるような状態だ。
こんな場所に、もしもユカがいたら絶対に良くない事が起きそうな気がしてならなかったから、急ぐようにして聞き込んでみたけど、彼女はここには居なかった。

「うーん、この町じゃないみたいだな」
「ユカ、どこだ?どこいったんだ??」
「よし、さっさと行くか。次は大陸の一番北にあるツェンの町だ」

頷くガウと一緒に歩き出し、早々にマランダの町を後にする。その後、自分達より一足早くベクタに向かっている兄貴達の状況を確認するため、首都を経由する道のりでツェンへ行くことにした。

その道中、久しぶりの野宿をガウと過ごしながら、思い出していたのはレテ川からナルシェに戻ってくる旅のことだった。シャドウやカイエン、そしてガウと出会ったり、本当に色んな事があったなって懐かしむように記憶を辿っていく。

ユカときたらリターナーから脱出する時、イカダに乗るだけなのにビビってたっけ。他にも何故か急に怒ってきたり、楽しそうに笑ったり、辛い出来事に悲しそうにしたり。
頑張って、頑張り過ぎて倒れたのに、それでも人の心配をするようなやつで…。
ナルシェで幻獣を守った後には俺と言い合いして、お互いこれからも一緒に旅を続けようって話しもした。

初めて城を見た時のはしゃいだ顔は子供みたいだったり、でも時々俺よりも年上みたいな表情や口調で話しをしたりする彼女。

レテ川でユカが俺の頬に触れていたのが夢じゃなくて本当だった事を知った時や、フィガロ城で彼女の肩に凭れる為に具合が悪いフリをした事とか、何かが起きる度に俺の心はいつも不思議な感覚になる。

一緒に居て楽しいとか嬉しいとか以外に、傍に居ると凄く気持ちが落ちつけるというか。
母親っていう存在とは違うけど、時々―――こう思う。

寄り掛かりたい…って。

ガウの出生について話をしていた時、ユカは言ってた。
“誰だって甘えたいときくらいあるよ”って。
きっとそれがこの感じなんだって、今ならハッキリと分かる気がした。

「ュ……マッシュ!マッシュ!!こげこげだぞ!!魚こげてるぞ!!」
「っつ!?悪ぃ!!!」

慌てて焚き火から遠ざけたけど、間に合わず黒ずんだ魚。大丈夫なものはいつの間にか全部ガウに取られてて、自分が口にした魚の味は今と一緒で苦いばかり。

「マッシュ、どうした?なんかあったか??」
「ん〜…。腹がイマイチ減らねぇんだ」
「びょうきか?けがしてるのか??」
「いや。どうしちまったんだろな…俺。ま、いつかは腹も減るだろうし気にすんな!」

はははと笑いながら持っていた焦げた魚を差し出すけど、ガウは無視して飯を食いだす。その様子を見ながら小さな溜息を漏らしていたら、ガウは噛り付いていた魚を口に咥えたまま喋り始めた。

「ユカもしてたぞ」
「何がだ?」
「マッシュとおんなじかお。おんなじだ」
「笑ってるのがか?」
「ちがう。それじゃない。くるしそうなかおしてた、さっきのマッシュみたいだ」
「・・・・・・・・」

今の俺が何かを考えているみたいに、ユカも何かを考えていて、その答えが今なんだろうか。だから俺には言わずに出て行ったりしたんだろうか。
だとしても、…やっぱりこう思うんだ。

「笑ってる方がいいよな」
「おいらも笑ってるのがすきだ!!」
「じゃあ、もう一回笑ってやる」
「いらないぞ!マッシュはやらなくていいでござる!」
「カイエンのマネすんなよ…」

どうしてなんだろうって深く考え込みそうになるけど、相手に聞かなきゃ分からないし、苦しくなるくらい抱えて溜め込んでるなら、俺に話して欲しいって思っちまう。

だって、楽しそうに笑ってるユカの方がいいに決まってるから。

「よし!さっさと寝て、明日早く出発しようぜ。ベクタにも寄らなきゃいけないしな」
「ガウ!!」

一日目の夜を終え、俺達は次の日の朝を迎える。
起きて早々に向かったベクタは、封魔壁の奥から現れた幻獣に襲われ、見るも無残な姿になっていた。

惨劇に見舞われた帝国はこの事態を後悔し、リターナーとの間に和議を設けたと兄貴は教えてくれる。そして、いなくなった幻獣を探し出し、話をすることで皆が手を取り合い和解しようという決定になったそうだ。
ティナとロックはその中心として、帝国のレオ将軍と大三角島という場所に向かったと説明してくれた。

「マッシュ、そっちはどうだ?」
「いや、まだ…」
「そうか。でも、諦めていないんだろう?」
「勿論だ!俺は会うまで諦めるつもりはないぜ!」
「こっちもまだ安心出来ない状況だ。やはり帝国は信用するに足りない。俺達が残って監視をしてるから、お前はお前のすべき事をしろよ」
「ああ!それじゃ、アニキも頑張ってくれ」
「分かっている。飛空挺で落ち合おう」

ベクタを離れ、次に目指すは北の町ツェン。
その場所にユカがいるかどうかは分からないけど、見つけるまでは諦めたくないんだ。

俺もガウも体力は他の皆よりある方だから、強行しながら休みなしで向かったツェン。思っていた時間よりも早く着き、町の様子を見てみると何故か帝国の支配から開放されていた。きっと兄貴達が帝国との間で取り決めでもしたんだろうと思いながら、ユカを見つけようとあちこち捜し歩いてみる事にした。

町の真ん中あたりに差し掛かった辺りで、男の子が階段の手すりを滑り台代わりに滑っていたのが目に付く。楽しそうにしてんな、と思っていたら、いきなり勢い余ってこっちに向かって子供がふっ飛んできた。

「っと!!危ないぞ、ボウズ」
「うわ!クマだ!!」
「くまじゃねーよ」

子どもを抱えたままでいると、向こうから母親らしき人物が走ってくるのが見えたから、ゆっくりとその子を降ろしてやった。

「申し訳ありません!うちの子が」
「いや、いいんだ。怪我しなくて良かったな」
「ありがとう!でっかいおにいちゃん!」
「どーいたしまして。次は気をつけろよ」

母親が謝りながら子どもに、“この前も他の人に迷惑掛けたばかりでしょ”と話しをしていた。子供は正直なのか、あの時のお姉ちゃんの方が優しかったなんて言ってる。
それがどんな人なのかって聞いたのは、この場の会話を保つための一言に過ぎなかったのに、まさかそれが当たるなんて思ってもなかった。

「黒髪の可愛らしい女性で、旅をしているのか少し男性のような格好をした方でしたよ」
「……ユカだ」
「どこだ?どこだ?どこにいる??」

詳しくその話を聞いて、足取りを掴む為に宿屋へと向かった。
するとそこで日雇いしたと話が聞けた。その後何処に向かったか尋ねると、ベクタとマランダについて色々と話しを聞かれたそうだ。

つまり次の目的地はそのどっちかって事になる。きっとベクタであった事を知ったユカなら、俺達を避けて進む筈だ。

「よし、ガウ。マランダに戻るぞ!!」
「がう??もどるのか?」
「ああ、なるべく早いほうがいい。急ぐぞ!!」

今度は迂回せず最短距離でマランダの町を目指す。
日にちに違いはあるが、俺達の速さでならどうにか相手が町に留まってる間に追いつけるかもしれない。

今度こそ見つけて、それで色々言いたい事を言ってやらなきゃ気が済まない。
だから、その為にも追いつかなくちゃ駄目だから。

ガウと走り出すこの先にきっと居る筈だ。
そう信じて俺達は走り続けた---。


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