EP.69
夕食でお腹も満たされ、皆の言葉で心もいっぱい。私は嬉しさに包まれながらセリスと共に宿屋の階段を上がっていく。
彼女と自分は一緒の部屋、男性達はロックとエドガー、あとはマッシュとカイエンさんとガウのそれぞれ三部屋に割り当てられた。

「他人の空似とはいっても女優の人と間違われるなんてセリスは凄いね」
「ユカ…またその話?」
「だって偶然とはいえ飛空挺の話が絡んだんだし」
「確かに、それは一理あるけど」
「さすらいのギャンブラーってどんな人なのかな?」
「さぁ。賭け事をするっていう時点で危険な雰囲気はあるわね」
「極悪な顔してたりして。傷がいっぱいあったりしてさ」
「居るだけで人を怯えさせるような大男?」
「そうそう」

勝手に想像して笑いながら過ごした後、自分はお風呂へと向かう事にした。

長湯につき合わせるのも悪いかなと思い、1人でゆったりと入浴を済ませ、髪を拭きながら廊下を歩いていく。すると、いきなりガウが目の前の部屋から物凄い勢いで飛び出してきて、ゴロゴロと床を転がりながら楽しそうにケラケラと笑っている。

「だ、大丈夫??」
「おお!!ユカ!こっちこっち!いいもの見せるぞ!」
「うわ!引っ張りすぎ!」

腕を掴まれ引きずり込まれた男性陣の部屋。
するとガウはベッドの上に乗ると、天井に頭が着きそうな高さまで飛び跳ねていた。

「おいガウ!やめろってさっきから言ってるだろ!」
「そうでござる!壊れたら弁償でござるぞ!ナルシェでどれだけ破壊した事か…っ!」

涙を滲ませ腕で目元を覆うカイエンさんの姿に、苦労の後が窺えて何だか切なくなってくる。なのでガウにどうにか落ち着いて貰おうと声を掛けることにした。

「ガウ。何だかすごく楽しそうだねー」
「おお!たのしいぞ!ナルシェよりピョンピョンだぞ!!」
「それはこのベッドが凄く高いからだと思う」
「おいらも高いぞ!!見てみろ!」
「その高さじゃなくて値段の方だよ。実はね、このベッドが壊れたらほしにく買えなくなるんだって」
「!?!?!??!」

聴いた瞬間、勢いよく跳ねていたガウが瞬時に飛び跳ねることを止めて静止した。

「か、かえないのか??ホントか?」
「だってベッド一個は、ほしにく100個分だから」
「!!!!!!!!!」

聞いた事もない数に驚いたのか、今までで一番大きな目をしたガウ。まぁ、本当にベッドがそれくらいの値段かどうか分からないが、100という数字の持つ威力である。

「どうする?滅茶苦茶に壊しちゃう??」
「だめだぞ!!!だめだ!!ほしにくこわしたらだめだ!!」
「それは残念。じゃあ代わりに座って話を聞かせてよ」
「いいぞ!おいらナルシェで新しい技おぼえたんだ!!」

ちょっと強引な気もするけど、何とかガウの気持ちを変えられたようで安心する。カイエンさんも泣きながら喜んでいたし、マッシュもよくやったって顔をしてくれていた。
それからナルシェでどんな事をしてたのか色々な話を聞きながら過ごしていると、急にガウが何かを思い出したようで変な頼みごとをしてきた。

「なぁなぁユカ!あれやってほしいぞ!あれ!」
「あれ?あれって何?」
「ここ!ここに座ればいい!こんなだぞ!」
「そうやってベッドの上に座ればいいの?」

うんうんと頷くガウに急かされ、枕の辺りに横座りするように促される。言われた通りにした瞬間、いきなりガウがそこに寝転び、私の太腿の上に頭を乗せたではないか。

「ぅあ!!い、いきなりどうしたの!?」
「へへへへ!これいいな!!柔らかいしあったかいぞ!」
「柔らかいって言われるとちょっと傷つくかも……」

苦笑いしながら答えていると、突然椅子に座っていたマッシュが大きな声で文句を言いながらこっちに向かって近づいてくる。

「おいガウ、お前何してんだッ!?さっさと避けろって!!」
「やだぞ!マッシュだけズルいぞ!!!おいらもやる!!」
「ズルいって何がだよ!?」
「おまえら獣ヶ原きたとき、川でやってたぞ!!」
「だから何だよ??俺はそんなの知らないって!」
「なぁなぁユカ!やってたもんな!手もやってたぞ!」

ガウは説明しながらいきなり私の手を掴むと、その手をガウ本人のほっぺたにくっつける。その瞬間、記憶の中の一部が合致して完全に思い出してしまった。

確かに…やった……。

でもそれは無意識であり相手を心配しての行動であり、全くもって他意はない。
しかし、ここで違うと否定するのもおかしいし、笑って誤魔化してマッシュに同意を頼むのは完全に不可能。
なぜなら今の心持ちでは彼の事を見れないからだ。

このままガウを相手に話を終わらせるのが一番だと考え、一人演技に没頭する事にした。

「あの時は、マッシュが呼吸してるかどうか確かめる為にしてたんだよ」
「こきゅうって息か?」
「そう。顔も真っ白で川は冷たかったから心配だったの。だから触って確かめたんだよ」
「おいらはどうだ??あったかいか?」
「あったかいよ。元気だから大丈夫」

ガウのほっぺを両手でサンドしてぎゅーーーってしてやった。
無垢な考えと行動に自分の脳内はハチャメチャだが、難は逃れたと思いたい。それに誤解も何もないし、ただ本当に心配だっただけだから悪い事は断じてしてない。

ガウのほっぺをふにふにしていると、柱時計が鳴ったのをキッカケに自分はすぐさまそれを言い訳に部屋を後にする事にした。

「それじゃあ、また明日ね!皆さんおやすみなさい」

全員に対して言葉を掛け、全員に向けてお辞儀をする。
誰か1人とか1人ずつは無理で、今はとにかくマッシュとだけは関わりを持つことをやめたんだ…。

次の日を迎え、カイエンさんとガウはチョコボに乗ってフィガロ城へ向かう。それを見送った後に自分達もチョコボに乗りオペラ座に向けて出発を開始した。

そこに向かう途中、マッシュが今日始めて声をかけてくれた。というのも朝食の時に挨拶をしただけで、会話らしい会話を今までしてなかったからだ。

「なぁ、ユカ。昨日の晩の事だけどさ」
「あ!そういえばベッド大丈夫だった??結構飛び跳ねてたけど」
「どうにかな。ちょっと変な音してたけどさ」
「そっか、とりあえずは良かったね」

彼の雰囲気から何かを感じ取ってしまい、話を逸らそうとする自分がいた。でもそんな事はお構い無しに、マッシュは自らが言いたいことを私に話す。

「ガウの事だけどよ、ちょっとは怒ってもよかったんじゃないか?」
「怒るって何を?」
「………あいつはあれでも男なんだぞ」

きっとマッシュは昨日の夜の出来事を話しているんだろう。彼の言いたい事が遠巻きだけど分かって、でも自分は自分なりに思ったことを相手に伝えた。

「ガウが男だって分かってるよ。自分とは違うし力は強いし。だけど、まだ子どもだよ」
「けどよ」
「あんなこと他の人にされたら激怒してたと思う。でもガウがどんな風に育ったかマッシュも何となく分かってるでしょ?」
「信じられないけど、獣ヶ原で育ったんだろうな」
「うん。それとね…言わなかったんだけどニケアを出発する朝に、話を聞たんだ…」
「話?何のだ?」
「朝食を食べた酒場でガウを見たおばあさんが、とっても元気な男の子ねって言ったの。そしたら何か昔の事を思い出したみたいで喋ってくれたんだけど……」

おばあさんが話してくれた内容を、誤魔化したり隠したりせずマッシュに全てを話す事にした。
レテ川近くの家に住んでいたちょっと変わったおじいさんに13年前男の子がいた事。だけど、真っ赤な子どもを目にした事と奥さんが死んだことで気が動転して、その赤ん坊を化け物だと思って捨ててしまったって。

「嘘だろ………」
「信じられないけど本当だって…。おばあさんが介助したって言ってたから」

境遇全てを可哀想とか悲しいって思うのが正しいかどうかは分からない。だけどガウはあんなに元気で笑ってて、今は皆と一緒にいる。
親が傍にいる事とか、愛されるとか当たり前だと思っていたけど…。

「ガウが欲しいって思ってるものの代わりをあげられるなら、あげたいんだ」

率直にそう思ったから、そうしただけ。
…だって。

「誰にでも甘えたいって思う時くらいあるから」

自分だってそうだ。
大変な時なんて特にそうで、誰かに寄りかかりたくなる気持ちはよく知ってる。

「それにガウは色々助けてくれた。だから私でよければいくらでも貸すよ」

しんみりする気持ちを吹き飛ばすように言って、それから笑いながら勝負を仕掛ける。

「どっちが先にオペラ座につくか勝負ね!!負けたらお菓子買ってもらうからっ!!」

チョコボの背中をポンと叩けば、クエッと一声鳴いて勢い良く走り出していく。
平原を抜けて林を抜けて両脇を海に挟まれた道を走り抜ければ、大きな建物が見えてきた。

「やったぁ!!!いっちばん!!」

潮風が揺らす髪を掻き揚げながら仰ぐ空。
チョコボみたいに黄色い太陽が眩しいくらい輝いていた---。


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