EP.66
「このまま徒歩でゾゾに向かうと夜を迎えてしまう。かといって今から一日潰すのは合理的じゃない」

だからチョコボを借りて向かうことになったのだ。

人生初のチョコボに乗れるのが嬉しくて堪らない私。とはいえ初心者でも大丈夫かどうか心配になり、マッシュにそれを聞いたら万人向けの交通手段だから問題ないと教えてくれた。

「チョコボはホントに頭がいいんだぜ」
「フィガロ城にもいたよね」
「交通、伝達、軍用。色々なとこで使われてるからな」
「野菜が好きじゃなかった?」
「そうそう、ギザールの野菜な」

お店の人の準備が終わるのを待っている間、チョコボの話をしてくれるマッシュ。
昔、こんな事があったんだと子供の頃の思い出を色々聞いていたら、少し離れた場所にいたエドガーが笑っていた。

「あの時のマッシュの顔は傑作だった」
「おい………アニキ」
「そうだ、ユカ。いい事を教えてあげようか?」
「何ですか?」
「実はマッシュには宿敵がいるんだ」
「宿敵?」
「アニキ、ちょっと待てよ。俺にはそんなの」

神妙な面持ちになるエドガーにつられて真剣な表情で話に耳を傾ける。
マッシュが小さかった頃、とある森で出くわしたらしく、相手は小柄だというのに恐ろしい強さだったという。

「一体どんな相手だったんですか?」
「その相手はね……。実は“ナッツイーター”なんだよ」
「ナッツイーター?」
「リスみたいな姿で胡桃を胸に抱えているんだ。姿は愛らしいんだがね」

いつも戦闘では負け無しのマッシュが、愛らしいリスに苦戦するなんて意外だった。もしかすると今までにも遭遇した事があるんじゃないかと思ったら、申し訳ない気持ちになる。

「ご、ごめんなさい、マッシュ。怖かったのに戦わせたりしたかも…」
「おい、待て。そんなの20年以上も前の話だぞ!!」
「マッシュ、大丈夫だ。今のお前は強い」
「だからガキの頃の話だって!アニキも悪ノリし過ぎだ!ユカが変に信じるだろ!」
「でも、どうしてそんな事になったの?エドガー」
「齧られたんだよ。クルミをあげようとしてね」
「クルミ…。そういえばマッシュがよく食べてる!」
「マッシュもナッツイーターもクルミが好物なんだ」

ナッツイーターに指を噛まれるというチョットかわいい過去を知り、今までと違った一面を知ることが出来て嬉しくなる。
思い出話は尽きることがなくて、楽しい会話に笑いが絶えない。エドガーに文句を言うマッシュを宥めていると、チョコボを引き連れたロックから召集が掛かった。

「おーい、3人とも。用意が出来たみたいだから行こうぜ」

返事をしながら割り当てられたチョコボに跨り広い大地を駆けていく。手綱をしっかり持つだけで先を走る皆の後を勝手について行ってくれるから、自分は乗っているだけでよかった。

頬を撫でる風も、高くなった場所から眺めるフィールドも色々なものが真新しい。
心地良さに浸りながらゾゾに向かって駆けている途中、不意にエドガーがマッシュと私の間に入り、並走しながら話を始めた。

「2人に少し話したい事があるんだが、いいかい?」
「どうしたんだ?アニキ」
「何でしょうか?」
「これから向かうゾゾについてだ」

思案顔になったエドガーは改めてジドールで話した内容を繰り返す。
ゾゾは最下層の人たちが暮らす場所である事。
だからこそ注意しなければいけないと語る。

「2人は優しいが故に人を疑う事に関して少し鈍い所がある。酷い奴かと思われるだろうが、その優しさはゾゾで通用しないと思ってくれ」
「結構酷いのか?兄貴」
「ああ。帝国の動きも影響にあるだろうが、益々貧差が激しくなってる」
「…そうなのか」

エドガーが言うには、ジドールの裕福な部分には色々な裏もあるらしい。
ただ、自分には詳しく分からなくて黙って話を聞き続けた。

「環境や金銭が人に与える影響は大きい。心が荒み他人を騙したり陥れたりもする。ゾゾではそれが日常茶飯事で起こるからだ」
「…つまり誰も信じるなって事か」
「ああ。同情を買って手の平を返して襲ってくる人間もいると聞いた。義に反するとは思うが理解してくれると助かる」
「兄貴がそこまで言うならそうなんだろうな。分かったよ」
「私も理解しました」
「ありがとう、2人とも。その優しさ大事にしてくれ」

話し終えたエドガーはチョコボの背をポンと叩き速度を出すと、一番先頭まで駆けていった。忠告を踏まえた上で到着したゾゾの町は想像以上に暗く、危地な雰囲気を纏う様に雨が降っていた---。


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