EP.57
ケフカとの戦いが終わり、ティナが姿を消した後、気を失ったロックを背負いながら俺は町を目指して薄暗い坑道を進んでいた。
そして、その後ろにはロックがナルシェに連れて来た帝国の元将軍、セリスがいる。

一定の距離を保ちながら、黙ったまま後をついてくる彼女が、帝国の人間だったことを俺は知らなかった。

それは、ティナの事だってそうだ。
彼女が魔導アーマーに乗って帝国からナルシェに攻めてきたと聞いたけど、俺は実際それを見てないし、ティナと会ったのだって兄貴と一緒に居るときだったから、深い事情があるなんて考えもつかなかった。

ただ…セリスの時は少し違った。帝国の悪事をドマで目にしたせいもあるけど、何よりもカイエンがセリスを見た時のあの表情が大きかった。
憎む心が剥き出しになった顔を見た瞬間、本当にセリスは今の俺たちと対立する帝国側の人間だったんだなって思った。

どんな経緯で、どうして今になってリターナーに加わったかは分からない。ただそうだとしても彼女は間違いなくナルシェに攻めてきた帝国と戦った。
ケフカに裏切り者呼ばわりされ、始末してやるとまで言われても、それでも戦ってた事に間違いは無かった。

「ロックって、いい奴だよな」

後ろにいたセリスに向かって話しかけてみると、少し遅れて返事が返ってきた。

「いい奴ではなく、お人好し過ぎる…」
「確かに!言えてるな」
「…こんな裏切り者の私を拾い、仲間に誘うのだから。酔狂な男だ…」
「それがロックのいい所だろ??」
「・・・・・・・」

相手が黙り終わる会話。
ただ、少なからず人と話を出来る奴なのは分かった。それに、家に着いてロックをベッドに降ろすと、セリスが何となく不安そうにする表情が窺えた。
味方だった奴等からは裏切り者と言われ、ナルシェに来ても帝国の人間として疑われる。セリスにとってロックはたった一人の味方なのかもしれないって、そんな風に感じたんだ。

そして、不安そうにするセリスの表情を見てると、思い出すのはやっぱりユカの事だった。

「ロックの事、頼んでもいいか?」
「何?」
「今度はセリスの番だろ。じゃ、よろしくな!」
「おい、待て!!私は…!」

慌てるセリスをロックの元に置き、来た道を戻っていく。坑道を走るように進みながら、俺は頭の中でケフカとの戦いを思い出していた。

次から次へと向かってくる帝国兵を倒す中、入り組んだ地形から帝国兵が奥へと向かって行くのが見えた。自分の行動が作戦を無視してるって分かってたけど、それでも俺は単独で帝国兵を追いかけていった。

バナン様を狙っていたように思えたけど、それよりも先に標的にされたのはユカの方だった。敵が振りかざす剣が目に入った時、呼吸をするのを忘れるくらい全速力で駆けていた。

自らの武器で相手の背中を切り裂き、助けたかった相手を心配して近づいて行くと、俺を見たユカは、突然こんな事を言った。

“ごめんなさい”…って。

今までにないくらい本当に苦しそうな表情だった。
どうして彼女がそんな顔をするのか、どうして謝ったのか分からなかった。

相手に声を掛けようとするけど、状況の変化に追われて、理由を聞く事が出来なかったんだ。

「何で謝ったんだろ……あいつ」

それが知りたかったし、戻ってこないのが気になって洞窟を進んでいけば、帝国兵と戦った場所まで戻って来ていた。
つまり彼女は、俺がロックを運んだ時に別れてからずっと、この場所にいた事になる。

冷たい空の下、洞窟を抜けた先に兄貴とカイエンの姿を見つける。声を掛けようとしたけど、じっと何処かを見つめている様子だった。

「どうしたんだよ?2人して」
「ん?マッシュか」
「さのさ、ユカのこと見なかったか?」
「ユカ殿なら、あちらでござる」

指し示す動きにつられて目を向けると、そこには死体を燃やす炎の前に立つユカの姿があった。どうしてあんな所にいるんだと、不安のあまり連れ戻そうとする俺を兄貴が止めに入る。

「少し落ち着け、マッシュ」
「けどよ、ユカはあの火が何か知ってんのか!?」
「ああ。理解した上で彼女は自ら望んで、あの場所に立っているんだ」
「何でそんな事……」

すると隣に居たカイエンが、俺にその理由を教えてくれた。

「手を合わせ祈ってるのでござる」
「……手を…あわせて?」
「ドマでも見られる風習でござる。死んだ人を悼み、どうか安らかであるようにと…」

目を瞑り両手を胸の前で合わせるユカ。その横顔は、今までに見たことがないくらい凛としていた。
真剣に祈る彼女の姿を見つめている時、ふと兄貴が呟いた言葉を聞いて、その通りだなって強く感じたんだ。

「たとえどんな形であれ、死と向き合うことが出来るなら、少なくともあの子は強い子だ。戦えなくともね」
「俺も、そう思うよ」
「ユカ殿は優しい子でござるからな」

3人で頷き合っていると、祈り終えたユカが俺達を見つけて、慌てた様子でこっちに向かって駆け寄ってくる。

「皆どうしたの?!」
「お前のこと待ってたんだ」
「え!?ごめんね、寒いのに…。ちょっと我侭言っちゃって」
「レディのワガママなら幾らでも構わないよ、私は」
「またか、兄貴。さてと、ユカ、カイエン、帰ろうぜ」

若干不満そうにする兄貴も交えて、4人並んでナルシェの町へと戻っていく。
坑道に入る間際、ユカがもう一度だけ後ろを振り返り、それからまた前を向いて歩き出したのを目にする。

彼女に争いは向かない、そう思うのに巻き込んじまったのは、間違いなく俺なんだ---。


prev next

bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -