EP.49
マッシュとカイエンさんとガウ。
三人の優しさに触れて心がいっぱいになって泣きたくなる。こんな自分の為に待ってくれて、心配してくれて、1人じゃない心強さ。

たくさんの安心を胸に抱きながら眠りについた私は、暫くのあいだ寝ていたようだ。真夜中にふと目を覚ますと、そこにはカイエンさんに代わってマッシュがいて、優しい声で話しかけるから、まるで初めて会った日の事を思い出す。

あの時もこうやって彼が居てくれた。今も起き上がろうとする自分の背中に触れるマッシュの手にそれを感じる。

苦手なポーションを飲んだ後、目が冴えた私のワガママに付き合うように話してくれた昔のこと。
今のマッシュから想像できないような姿と、僅かでも過去を知れたことが嬉しくて。
語る彼の言葉から、昔の彼に何かがあったんだと窺うことができた。

“小さいころ何かあったの?”

自分の憶測でしかない問いかけ。
生きていく中で辛いことが無いなんて在りはしないけど。

だけど、お師匠様の家にいた時、自分が変わることの難しさを話してくれた。そして違う自分になれていたら嬉しいと語ったから…。

状況も立場も違えど、今の私と同じように上手くいかず悲しくて悔しい時があったからこそ、自らを変えたかったのかもしれないと思えた。

何があったとは事情を話してはくれなかったけど、もしもそうだとしたら自分もマッシュのように今からでも強くなれるだろうか。
戦う力がない自分だけど、誰かを支えられるような存在に。

だからこそ、せめて人の手を煩わせたくない。なのにいつも失敗して、今だって結局マッシュに迷惑をかけてる。
せめて言葉だけでもって思うから、見守ってくれる彼が寒くないかなとか、眠くないかなとか、気に掛けたのに相手が同じように自分を気に掛けてくる。

大丈夫か?痛くないか?隠し事は無いかって。
問われて黙ってしまったのは、複雑な心のせい。

失敗はいつも自分が隠そうとするから起こる。
だから隠していた足の痛みを口にして謝った。

するとマッシュは迷惑よりも後悔する事を嫌った。もしかすると昔の事や、そしてお師匠様やバルガスさんの事も含めたものだったのかもしれない。

自分の存在が大きいとは微塵も思わない。
だけど、それでも僅かながらでも気にしてくれるなら、時々挫けそうになる心を助けてほしくて……。

我慢する事を苦しいと理解してくれる彼の優しさ。
その優しさが今までどれほど自分を支えてくれただろうか。

居てくれなかったらきっと。
居なかったらきっと。
自分はここに居られなかっただろう。

「……………………ッ」

滲むように溢れた涙を、額に乗せていたタオルで消し去れば気付かれることはない。
返事が出来ない代わりにそれを返せば、隠れている私を探すようにマッシュが布団をめくろうとする。

せめて溢れそうな心を一瞬でも落ち着かせる時間が欲しくて、彼のその手に自分の手を重ね止めた。
言える言葉など限られているけど、今一番に感じた事を伝えたい。
そうすればきっと、思いを言葉に乗せて渡す事は出来ると思ったから。

“マッシュが居てくれて…本当に良かった…”

口にした本心は彼に届いただろうか。
与えてもらってばかりで何も返せないから、せめて言葉だけでも貴方に返したい。
何度ありがとうって言っても足りないくらい、マッシュに感謝してるから。

だからこそ伝えたかった---。


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