EP.47
もう少しだって思ってしまったのがいけなかったのかな。
後は船に乗るだけで目的地に近づける、だから緊張の糸が緩んでしまったのかもしれない。

だけどもうすぐなら尚更自分が頑張ればいい、我慢すればいい。
だって、いつも皆の後ろを歩いてるだけなんだから・・・・・・。

3人に気取られたくなくて朝食を1人で食べようとするけど、全然食べられなかった。
パンを一口かじって早々に終わった食事。
出発までの時間は横になっていようと廊下を歩いていると、運悪く三人と出くわしてしまった。

「お、ユカ。丁度良かった。これから朝飯行くだろ?」
「皆、おはよう。…あの、ごめんね。実は凄くお腹が空いてさっき食べちゃって…」
「おいらもたべたかったぞ!ずるいぞ!」
「ごめんね…ガウ。でもこれから食べるんでしょ?」
「あ、そうか。そうだった」

3人に謝りつつ、船の出発時間を聞いてから部屋に戻ってベッドに力尽きるように寝転ぶ。何だか時間が経つにつれて余計に体調が悪くなっている気がする。
でも、横になればきっと少しは良くなる筈だし、船にさえ乗ってしまえば、また横になれるだろうと考える。時計の針を見ながら時間になるまでの間を過ごしていると、いつの間にか眠ってしまっていた。

それから次に目が覚めたのは、ドンドンドンドンと乱暴に扉を叩く音がした時だった。

「ユカ!いるか?いるか?ガウとはなしするぞ」

廊下から聞こえてきた声に短い返事をする。
招き入れる為にベッドから立ち上がろうとしたらフラリと体がよろめいた。慌てて近くにあったテーブルに掴まり、どうにか持ちこたえてからドアを開けようと歩いて行く。

一歩が遠く感じる中で掴んだドアノブ。
ゆっくりと開けてガウの話しを聞こうとするのに、立っているだけで辛かった。

「どうした??ユカ??どうした?」
「ん…大丈夫だよ。ちょっと…だけ……」

言葉を発する力すら段々と無くなって、自分を支える事すら困難になる。ずるずると壁に寄りかかりながら膝を着き、心配して近寄るガウの方へと倒れていく体。

「ご…め……ん……」

そう言うのが精いっぱいで、視界があっという間に黒く染まっていった---。




熱い炎に包まれているかのような苦しさの後、今度はいきなり冷たさを感じる。
急な温度変化に反応して瞼をゆっくりと開くと、カイエンさんの声が聞こえた。

「ユカ殿、大丈夫でござるか?」
「・・わたし・・・」
「ユカ、だいじょうぶか?だいじょうぶか??」
「ガ、ウ……」

2人が入れ替わり何度も心配してくれていた。
ああ、そうか確か自分は…。

「部屋で倒れたことは覚えておられるか?」

カイエンさんの声に頷いて、段々とはっきりしてくる記憶。
だからこそ、重要な事を思い出して飛び起きた。

「……ッ時間……時間は…!」

部屋にあった壁掛け時計を確認すれば、予定の出発時間はずっと前に過ぎていたことを知る。

「う…そ………」

窓の外にある太陽を見ると、もうすぐ地平線に届きそうな場所まで下がっている。どうにかしなければと考えを巡らせて慌てるけれど、急ぐ以外に手立てが見つからない。

「きっと夕方だったらもう一回くらい船が出るかもしれない!」
「ユカ殿、無理は駄目でござる」

ベッドから降りようとする自分をカイエンさんが止めに入ってくる。
ならばこの気持ちを分かってくれそうなマッシュに声を掛けた。

「急げば間に合うよね!!」
「いや、今日は行かない」
「どうして?大丈夫だよ!急いで準備するから!」
「しなくていいんだ。分かるだろ?」
「わ、分かんない…そんなの。だってまだ船があるなら行ける!」
「……ユカ」
「もう全然大丈夫だから!早く行こう!行こうよ!!」
「ユカ!!」
「……ッ…」
「無理なものは無理だ。それに、行かないって決めたんだ」

低い声で私の言葉を牽制して、じっと見つめる眼差しが動きを止めてくる。
行けないのはきっと自分がいるせい。だからこそ、自分がとるべき行動を決めなきゃならない。私よりも今は大事なことがあるって知ってるし、優先度を考えれば、きっと皆も理解してくれる筈だって思ったから。

「それじゃあ、皆が先に船に乗って行けば大丈夫だよね」
「ユカ殿…何を…」
「今は急いでナルシェまで行かなきゃならないから。だから私は後で向かいます」

一緒に行動しなくても、別々になればいいことじゃないか。
そうすれば、皆は先に行けるんだから。
大事な時間を私に使う必要なんてないんだから。

「ティナとエドガーさんもマッシュ達が来るのを待ってるよ。だから」
「ユカ。それ、本気で言ってんのか?」
「勿論だよ。今の状況を考えればそれが最善だし、自分の意義は…わきまえてるから」

今のままでは一緒に行けないんだから方法はこれしかなかった。理解してもらえると思ったし、気持ちを分かってほしかった。

「皆の足は……引っ張りたくないから…。だから先に行って欲しい」
「だから何だよ?それが何だっていうんだよ」
「何だ…って何?だって大事な事だよッ」
「大事だって??どこがだ!?」
「だって急いでるって知ってるから!」
「2人とも!落ち着いて話をするでござる」
「ッ…けどな、カイエン!!こいつ何も分かっちゃいないって!」
「しかし、ユカ殿は病の身でござる」

意見が食い違って、かみ合わなくて、分かって欲しいのに分かってくれない。
迷惑を掛けたくなかった筈なのに、こんな風になってしまった事が辛くて堪らない。だから分かってくれない憤りを、理不尽にぶつけてしまう。

「…何も出来ない自分なんかの為に皆を巻き込むのが嫌なのッ!置いて行けば済む事なんだから置いてってよ!!」

熱で声が掠れて強がる願いすらまともに言えない。
惨めに感じても、それでも皆に迷惑はかけたくなかった筈なのに…。

「だったら、一つ聞いていいか?」

普段と全く違う表情をしたマッシュがベッドの縁に腰掛けながら、こっちをじっと見つめて言う。

「もし俺達三人の誰かが倒れても同じこと出来るか?そいつに置いていけって言われて、病気の奴1人置いてユカなら先に行けるのか??」

どうして嫌な事を聞いてくるんだろう。
自分ならそんな時どうするかなんて考えなくても決まってるのに。

「言えない…よ…そんなの…。言えない。けど、それでも…先に行ってよ!…ねぇ、お願いだから、皆…ッ」
「絶対にヤダ。置いて行くわけないだろ!」
「そうでござる」
「ガウ、みんなと一緒だぞ!」
「ほらな?…ったく、強情すぎだろ、お前」

頭の上に置かれるマッシュの大きな手が私の髪の毛をくしゃくしゃにしてくる。
体が弱り心が弱った時にそんなことをされたら、堪らない気持ちになるのに。

「ユカが俺達に出来ない事、俺達がすると思うか?」
「っ…だけど!」
「黙っていっぱい寝ろ!いいな?じゃなきゃいつまで経っても船に乗れないからな」
「マッシュ殿、そのような脅しを病人にするのは感心せぬぞ」
「そうでも言わなきゃ絶対無理するだろ」
「いやいや、病の時こそ優しくせねば」
「分かってるって。ま、とりあえずは薬だ!」

そういってマッシュが持ってきた茶色の瓶に入った凄く苦い薬を飲まされ、無理矢理寝かしつけられる。カイエンさんが傍にいてくれて、優しい笑みを湛えながら額に冷たい布を乗せてくれた。そんな顔をみたら、いくら抑えようとしたって胸の奥から色々な気持ちが込み上げてくる。

「あり、がとう……っ。マッシュ…カイエンさん……ガウ……」

皆の温かい心が嬉しすぎて、苦しくなって、今にも泣きだしてしまいそうだった---。


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