EP.20
ティナと話をしている途中、視線に気付き顔を向けると、マッシュさんの双子のお兄さんであるエドガーさんと視線が重なる。
見透かすような眼差しに見つめられ、気持ちが落ち着かずソワソワしてしまう。

「あ、あの…もし何かやるべき事があったら言ってください」

どちらもが答えを必要としない差しさわりの無い言葉を掛けると、均整のとれた笑顔が返ってくる。

「大丈夫、何も無いよ。レディ達の微笑ましい光景に目を奪われていただけだからね」
「そうなんですか…。それならいいんですが……」

何となくはぐらかすような言い回しだったが、向けられていた視線からは逃れられたようだ。
その後、焚き木を消して意気込みも新たに再出発を切る。
目的の地であるコルツ山に来たのだから、どうしてもあの三人と会わなきゃいけない。周りに注意しながら姿を探して歩き出すと、程なくして洞窟から外へと出た。

陽の光に眩しさを感じながら道なりに進むのだが、段々と登った山を螺旋状に下っている事に気付く。という事はもしかして山道はこれで終わりなのだろうか…。

会えないまま終わってしまったら意味が無い。
それに、山に登った目的はこの人達と自分では異なる。
帰るにしろ、探すにしろ、もしも下山するまでに見つけられなかったら、後は自分でどうにかしなきゃならないんだろう。

でも、一人であの場所で待つよりはいい。
自分でそう決めた、だから。

「諦めない………」

肩に提げていた鞄の紐をぎゅっと強く握りながら進んでいると、急にロックさんが腕を横に広げ、全員を静止させた。

「…誰かいる」
「―――………?」

洞窟奥に向かう入り口に誰かが立っていると、声を小さくして話す彼。
そのロックさんの肩越しから見た人物に、驚きのあまり息が詰まった。

「バル…ガス……さん」

ようやくの思いで会えた一人。
これでどうにか話が出来る、きっとマッシュさんもお師匠様にも会える。
その思いだけで駆け出していった。

「バルガスさんッツ!!!!」

「!?」

彼が珍しく目を見開いてこっちを見つめる。
けれど、すぐに私の後ろへ鋭い眼光を向け、こう言い放った。

「マッシュの手の者か?」
「・・・・・・・え…?」
「お前も同じ…そういう事か…」

そう言った途端、彼は突然体を宙に浮かせ岩壁を足場に高く飛翔すると、ロックさん達に襲い掛かり蹴散らしてしまった。

「――――ッ!?!?」

まさかの出来事に驚くしかなくて、どうしていきなり攻撃したのか理解できなかった。
そして何よりも信じられなかったのは、さっきの言葉だった。

“マッシュの手の者か?”

どうして。
何でそんな言い方をしたのか。どう考えても絶対にある筈が無いのに。
そんな想いが込み上げてきて、歯止めが利かず自分はバルガスさんに声を張り上げ言い放っていた。

「マッシュさんがこんな大事なことを他の誰かに任せたりなんか絶対にしないッ!!」
「……お前…」
「私は皆を探す為に自分の意思でここに来たんです!何で…どうしてこんな所で一人で居るんです……?2人は…??」

目の前の彼に問いただしていると、倒れこんでいたエドガーさんが起き上がりながらバルガスさんに尋ねた。

「マッシュはいるのか?」

エドガーさんを見た途端、バルガスさんの顔がより一層険しくなったのが分かった。周りの空気が冷えたものへと変化していく中、ロックさんも立ち上がる。

「さっきからうろちょろしてたのはお前だな?」
「知るか!」

大きく低いバルガスさんの声が辺りに響き渡る。
そして冷たい眼差しと共に言葉を吐き捨てた。

「貴様らが何者とて捕まるわけにはゆかん。このバルガスに出会ったことを不運と思って死んでもらうぞ!!」
「どうして………」
「所詮お前は他人。そして全ての人間がそうだ」
「でも!!」
「言った筈だ。二度と会うことは無いと」
「・・・バルガスさん」

一歩、また一歩と近づく彼から逃げる事など出来なかった。
悲しいとか怖いとか、そんな感情じゃない。
自分の無力さが、ただ辛かったんだ。

「こざかしい。くだらん望みを持つからこうなる」
「そんな…そんなこと…ッ」

反論しようとする自分の言葉と、バルガスさんが振り下ろす腕は同時だっただろうか。見えないほどのその攻撃に目を瞑ることすら出来なかった私の目の前を覆ったものは、いつか見たあの人の背中で---。

「くだらない事なんて何一つない!!!忘れたのか!おっしょうさまの言葉をッ!」
「マッシュか!」
「もうやめろっ!!バルガス!」

立ちはだかり向き合う2人。
会いたかった二人が、こんな状況で再会してしまった。
マッシュさんは一度唇をぐっと噛み、そして苦しそうに問いただす。

「バルガス、なぜ、なぜ、ダンカン師匠を殺した?実の息子で兄弟子のあなたが!」

それを聞いたバルガスさんはとても低い声でゆっくりとこう答えた。

「それはなぁ…奥義継承者は息子の俺ではなく、拾い子のお前にさせるとぬかしたからだ!!」
「ちがう!!師はあなたの………」
「どう違うんだ?違わないさ、そうお前の顔に書いてあるぜ!」
「師は、俺ではなく……バルガス!あなたの素質を……」

異を唱えるマッシュさんの言葉はバルガスさんには全く届いていなかった。そして今の2人の会話を聞いてそうやく分かった気がした。マッシュさんがどうしてお師匠様の悩みを理解することが出来ていたのかを…。

「たわごとなど、聞きたくないわ!自らあみだした奥義!そのパワー見るがいい!!」

苛立ちを募らせたバルガスさんが奥義の名前を口にした途端、吹き荒れ巻き上がる突風。恐ろしい程の風の勢いに体が耐え切れず地面を離れ宙を浮き、バルガスさんとマッシュさんから離されていく。

「っ……!!」

自分の力ではどうすることも出来ない圧倒的な力。崖下に吹き飛ばされそうになる所を受け止め助けてくれたのはエドガーさんだった。

「無事か…!?」
「…は、はい…。エドガーさんこそ大丈夫ですか」
「ああ。心配ない」
「良かった…。けど、マッシュさんが…!!」
「あいつなら大丈夫だ。今、あの男と向き合ってる」

遠く離れた場所で、2人が何かを話している。
聞き取る事はできないけれど、マッシュさんが身構えたのを見た瞬間、今から何が起こるのかを悟るしかなかった---。


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