EP.95
食事をしながら聞いたユカの一年。
ナルシェにある氷漬けの幻獣の前で倒れていて、この大陸にいた師匠と再会し、暫くのあいだ一緒にここで生活してたって教えてくれた。
その間に料理や家事の腕を上げたらしく、今なら俺より絶対上手だって言い張ってくる。

確かに食べた料理は今の俺と比べものにならないほど美味いから負けは確定してるけど、好きな相手の作ってくれる飯が食べれて、しかも美味しいならどっちかっていうと俺の勝ちじゃないか?

とはいえそんなの言えるワケ無いから、自分の胸にだけしまい込んでおくことにした。

こうやって三人で過ごしてると、あの日のままなんじゃないかって錯覚しそうになる。バルガスが普通に家に戻ってきて、ユカと言い合いして自分がそれを止める。
師匠は気にせずお茶を飲んでて、騒がしい時間が過ぎていくんだ。

でも今はあの日とは違う。
やらなきゃいけない事が自分達にはあるから。
少しだけ過去を思い出す今に浸って、明日からはまた前を向こう。
そんな事を自分と約束して、幸せな一夜を三人で過ごしていった。


次の日、目覚めるとユカの姿が見当たらなくて、お師匠様に聞けば裏にそびえる山に向かったと話してくれた。

「食料でも取りに行ったのかな」
「いいや、あの子は見つけに行ってるんだ」
「何をですか?」
「バルガスの話をしたあの日から毎日、また会えるかもしれない偶然を見つけに」
「毎日・・・」

結構な高さがある山を、毎日ユカが登ってるなんて思わなかった。
一緒に旅をしてた時は疲れてすぐに寝ちまうぐらいだったのに。

「行ってきていいですか?」
「場所が分かればいいがな」

きっとユカは道に目印をつけてる筈だから大丈夫と話し、俺は家を出た。北に向かって山を目指せば、本当に目印になるものがあったから、予想通りで笑えてくる。

青い花が道なりに沿って、山の上まで咲いている。
まるで自分がいる場所を示しているかのように、ずーっと続いていた。

山頂近くまで登っていくと、そこには一面花が咲いていて、崖のそばで1人佇むユカの姿があった。

「花、綺麗だな!」

声を掛ければ驚いたようにこっちを見て、照れくさそうに笑ってみせる。相手の隣に立って眼下を見れば、吹きつける風が頬を撫で、ユカの黒髪を揺らした。

「もしかしてこの花、植えたのか?」
「山の中で探して少しずつ増やしていったの」
「どうしてこんな事したんだ?」
「分かるかなって思って」
「分かる?」
「この花を見たらあの家のこと思い出して帰ってくるかなって。目印にしたんだ」
「・・・そっか」
「これだけあったら嫌でも気付くよね。ちゃんと迷わないように下まで繋げたし」
「そうだな。流石に気付くだろアイツも」
「でしょ?」

小さく笑いながら遠くを見つめる彼女。
俺はそんな相手にお礼を伝えた。

「ありがとな。おっしょうさまの事もそうだけど、バルガスの事もさ…」
「違う、謝らなきゃいけないのは」
「俺には出来ないから。言えもしない言葉なんだ」
「じゃあ……その代わり信じようよ。会えるって」
「・・・俺が…そんなの」
「いつかは絶対会える。だから心配ないよ」

空を見上げながら言ったその言葉は、どんな思いが込められてるんだろう。ただ、その何時かが来るまでは、俺も強く生きなきゃならないって思ったんだ。

「あれ?マッシュ、もしかして泣きそう?」
「泣くわけねーだろ!」
「いっぱい泣いたもんね」
「そうだな・・・。なッ、おい、何で知ってんだよ!?」
「気付かない訳ないよ」
「………………」
「大変だけど頑張ろうね」

優しくて柔らかい表情で俺を励ましてくれるユカを見てると、また胸が苦しくなった。
こんな笑顔で見つめられたら、勘違いしそうになる。
相手も自分を想ってくれてるんじゃないかって。

―――…そんな訳ないのに。

「マッシュ」
「ん?」
「一緒に行ってもいいよね?決めてたんだずっと。マッシュと一緒に行くって」

俺と一緒に。
それはきっと仲間としての繋がりなんだろうな。
だけど、俺も一緒に行くって決めてたから。

「ああ!勿論だろ!行こうぜ!」

花びらが舞う山頂で言葉を交わし、俺達は師匠のところへ戻ると旅立つことを話した。

「行け!ケフカを吹っ飛ばして来い!」

師匠が大きな声で俺達を言葉と共に送り出してくれる。
そんな師匠にユカはずっと手を振りながら歩いていた。

ナルシェの近くまで来ると、ようやく見えてきた飛空挺。
約束の時間には少し遅れたけど、きっと許してもらえると思う。

戻ってきた俺を出迎えてくれたセリスが隣にいたユカを見つけて、大きな声で名前を呼びながら走り寄ると、2人して嬉しそうな顔をして抱き締めあっていた。
セッツァーもそれに気付いて口元をあげながら、いつものぶっきらぼうな口調でユカに声を掛ける。

俺は今、この時になってようやく気付いた事があった。
一年ぶりの再会を兄貴とユカがしたらどうなるんだろうって---。

俺の時みたいに…いやきっとそれ以上に泣いて嬉しそうな顔をするんだろうなって考えちまう。それを思うと、今この場にいる事がものすごく嫌になった。

2人が抱き締めあって喜び合う姿を見なきゃいけないなんて、そんなの辛すぎだ。

会うな。

なんて言えないから、俺は見なければ済むと思って、さっさと飛空挺の中に入ろうとした。なのに、その直前に兄貴が出てきてしまった。

ユカの姿を見つけた兄貴が、相手に近づいていく。
兄貴を見つけたユカもまた、相手に近づいていくんだ。

2人から背ける顔と視線。見ないようにしようと足早にその場を去るのに、今度はルノアと鉢合い前に進めなくなる。
強引に行こうとする俺の横で、無情にも2人の再会が始まってしまった。

「エドガー!!」
「ユカ、無事だったか!」
「勿論です!それに皆も無事で良かった、本当に!!」
「そうだな。また会えて嬉しいよ、レディ」
「私も皆とまた会えてとっても嬉しいです!」

たった、それだけだった…。
2人の会話はそこで終わっちまったんだ。

「あ!ルノアさんも居る!無事だったんですね!」
「ええ。貴方も無事で何より」
「ルノア、彼女の名前はユカだ」
「ああ、そうか。ユカ、よろしくお願いね」
「はい!よろしくお願いしますルノアさん」
「それと、皆と同じように私の事は名前で呼んでほしい」
「じゃあ、ルノアって呼びますね」
「よろしくね、ユカ」
「勿論です」

何故かルノアとのやり取りの方が長くて訳が分からなくなった。
どうして兄貴とはあんな淡白なやり取りで終わったりしたんだ?。
だって、好きな奴に一年ぶりに会えたんだったら、もっと嬉しくて泣いたりする筈なんじゃないのかよ…。

「ねぇ、マッシュ」
「・・・・・・・」
「皆が入れなくて困ってるよ。ほら、行って」

飛空挺の入り口に立ってた俺の背中を、ユカがぐいっと押してくる。
そのまま押されて中に入ると彼女は新しい飛空挺に興味津々のようで、セッツァーの所に駆けていくと、再会を喜びながら早速色々聞いていた。

杞憂に終わった兄貴とユカの再会。
だけど、どうして俺の時はあんなに泣いてたのに、さっきは泣かなかったんだ?
会いたかったって沢山言うだろうなって思ってたのに、何で少なかったんだ?

自分じゃ答えも出せない疑問が、頭の中をグルグルと回り続けていた---。


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