!Notハッピーエンド



「別れようか」


思っていたよりも綺麗に響いた私の声は、部屋の空気を揺らした。

そして部屋の空気だけでは飽き足らず、私のそれは空間を共有している彼の鼓膜をも揺らした様だ。



「……何…言ってん、だ」

「別れよう、静雄」


私の視界に映るのは、目を見開いた静雄の顔。


「…冗談にしちゃ、笑えねぇぞ」

「うん、冗談じゃないから」


刹那、静雄の眉間にシワが寄る。ごめんね、静雄。私はあなたにそんな顔させたくは無いけれど、でも、でも。


「…何かしたか、俺」

「――…うん、すごく、すごく、悪い事」

「っ―――、何だ?謝るから…」


そんな事言わないでくれ、

苦しそうな声に、覚悟が揺らぐ。だめだ、揺れるな。


「だめだよ、静雄は私と居る限りずっと悪い事をし続ける」


ねぇ、気付いてないんでしょう?


「だから、別れよう」


私は、先に左手薬指から抜いておいた指輪を、机に置いた。薬指の虚しさを押さえ込み、私は、そう言い切った。


「………悪い」


静雄は小さく呟いた。


「………え」

「俺は、お前に何をしたのかも、分からない。悪い事が何かすらも、分からない」


静雄は机の上にある元私指輪に、ゆっくりと触れた。


「それでも俺は、名前が好きだ」

「――――――っ、」


どくり、心臓が歓喜する。馬鹿、私だって、私だって好きだ。この世に静雄以外は要らない、愛せるのは静雄だけだ。でも――――


「…よく聞いて、静雄」


言わない、つもりだった。勝手に口が動いていく。


「…あなたはね、全然不死身じゃないんだよ」

「………え」

「確かに銃で撃たれても死ななかったけど、もっと人が多くて蜂の巣になってたら?」


私は、私はね静雄。もっともっと自分を大切にして欲しいの、自分を抱きしめて欲しいの。


「この前私を助けようとして、殴られた後頭部だって、当たり所が悪かったら…?」


目の前で、静雄の頭が鉄パイプで殴られた時、私は人生で初めて心臓が冷えて固まるかと思った。そのくせ静雄は私の心配ばっかりしてたよね。

私ね、あの時気付いちゃったよ。私みたいに貧弱なやつが静雄の横に居たら、静雄は余計な傷を負ってしまうんだって。


「、泣かないでよ、静雄……」

「……………っ」

「…これで、最後だけど、静雄。自分をもっと愛してあげてね…」

「………、最後なんて…!」



言うなよ。その言葉は聞けなかった。走って飛び出した静雄の部屋からは、ガシャァン!という酷い破壊音。ごめん、ごめんごめん。

走りながらもぼやける視界が今は愛おしくて。人にぶつかりながら池袋を走る。泣くなよ、頭の中でそう聞こえた気がした。



!あなたは不死身じゃない


ほんとは、私の事で傷付く静雄を見る覚悟が無かっただけの私を、どうか許さないで。


20110329.林田
title by.オートマ





どうしてこう…甘ぁーい話が書けぬのだろうか(笑)林田は只今続編を書こうかと思案中。ハッピーエンドにしようかな、静雄君視点書いて終わろうかな。

ていうか需要あるのかな。HAYASHIDAワールド全開ですからね…。天よ、私に文才ををををををを!