「静雄!次こーっち!」

「あ゙ーはいはい…」


ぶんぶんと手を振り回して静雄を手招きすれば、静雄はかったるそうにしながらも私の元に来てくれた。


「ねぇ静雄、このケーキにしようか!でもなぁ…もっと美味しそうなのもあるしなぁ…んー…」


今私達が居る場所は、最近池袋に出来たケーキ屋さん。

テレビで見た私は、どうしても行ってみたくて、静雄の仕事が休みのこの日を狙って一緒に着いて来て貰ったのだ。


「それでいいじゃねぇか」

「ん?静雄はこれが一番美味しそう?」

「いや別に…全部美味そうだしいいんじゃねぇの」

「んー…そうなんだよねぇ。全部美味しそうだから困っちゃうんだよねぇ」

「早く決めた方がいいんじゃねぇのか?もう1時間も悩んでるぞ」


そう、私は悩む事1時間。それでも決める事が出来ないキングオブ優柔不断なのだ。


「よし決めた!」

「何にするんだ?」

「静雄が一番美味しそうだと思ったやつにする!」

「…………は?」


静雄が目を丸くした。


「だって決めらんないから…。静雄が選んだやつなら絶対美味しいもん」


静雄は丸くしていた目を、ふっと優しく細めた。


「一番、美味しいそうなやつねぇー…」

「うん」

「それは大分前から決まってる」

「そうだったの?じゃあ早く買っちゃ――――」


ちゅ、

軽いリップ音が響いた。

え、ちょ、え?
今………今………っ?


「なっ、しししし静雄!何してるのっ?!」


私がかぁと顔を赤くして吃ると、静雄は真顔で答えた。


「いやだから、名前の唇が一番」


「美味しそうだったから」



その後、

二番目に美味しそうなのはあれ、と静雄が指差した奴を赤いままの顔でそそくさと買いに行った。

ケーキを渡して貰った店員さんに「ケーキと一緒に食べられないようにお気をつけ下さい」ともの凄い笑顔で言われた。

余計なお世話だこんちくしょう。



20100721.林田


やばい、楽しい(笑)


title:呼吸様より