※臨也の助手設定




「どうして名前はそんなに可愛いのかな」

「心にも無い事を言わないで頂きたいのですが」

「これは、手厳しい」


そうして私の雇い主、折原臨也は両手を挙げて降参のポーズをとった。

こういう私を小ばかにした態度がいちいち気に食わない。こいつが雇い主でなければ今頃コイツをぶん殴っている。

いや、一回ぐらい殴ったって罰は当たらないはずだ。寧ろ世界中の人類に感謝される勢いかもしれない。


「名前、物騒な事考えるくらいなら俺にコーヒー持って来てくれない?」


オマケに読心術なんて使っちゃう始末。

神様どうかこのうざやさんに隕石を落として下さい。


「…御意」

「やめてよ、そんな軍人みたいな返答。そこは、承りましたご主人さ「一回死んでください、ご主人様」

「おやおや、気性の荒いメイドさんだ」

「可愛くなくてすみません」

「ツンデレの飼い猫ってのも可愛いよねぇ」

「誰が飼い猫ですか誰が」


首輪付けてみる?と、どこからともなく首輪が出てくるのだからこの人は本当にうざいし怖い。

仕方なしにコーヒーをコポコポと臨也さんの愛用のマグカップに注いだ。

はぁ、と溜息をつくと波江さんが「あなたも苦労するわね」と、労いの言葉を掛けてくれた。

いや、ほんとに。

「波江さんもお疲れ様です」、と会釈をして私は臨也さんの元にコーヒーを持っていった。



「どうぞ」


ゴトッとコーヒーを置いた。


「ありがとう」


臨也さんはちらりと一瞬コーヒーに視線を移しただけで、手は驚くべき速さでパソコンのキーボードを叩いていた。

ちらりと臨也さんの方を見る。

真剣な横顔。

普通にしてたら凄く、それはもう馬鹿みたいに綺麗な顔なのにな。いつものあの厭味な笑顔がそれを台無しにしてる。

まぁ、それでも初めて会った女の子なら100%騙せる。

それくらい、綺麗な顔。



「ありがとう」


臨也さんの顔がまた厭味な笑顔に戻った。


「へ」

「まぁ俺としては綺麗な顔、よりカッコイイがいいかなー」

「えぇぇぇ!?もしかして口から漏れてました!?」

「あはは、本当にそんな事思ってたんだ」

「なっ――――!」


コイツ、カマカケヤガッタ…!


「思ってません!」

「名前ちゃん、流石に今から言い訳は苦しいんじゃない?」

「くっ―――!」


うざいうざいうざい!!今なら平和島さんの気持ちが解る気がする!いや、解る!断言する!



「ええ、思ってましたよ!顔だけは綺麗だなぁって!か・お・だ・け!顔だけですけどね!」

「わぉ、今度は開き直りかい?君は本当に見ていて飽きないね」

「お褒め頂き光栄です…」


もう嫌だ、コイツ疲れる。


「そんな大きい溜息つかないでよ。疲れてるんじゃない?」

「ええ、それはもう」


誰かさんのせいで、と言いたいところを飲み込む。すると臨也さんはいきなりパソコンをシャットダウンした。


「よし!」

「え?――ちょ、ひゃぁ!」


さっきまでくるくる椅子に座っていたのに、臨也さんはいつの間にか私の後ろに立っていた。

そして、あろう事か私を横抱きにしたのだ。

俗に言う、お姫様だっこだ。


「いいいいいいいいいいざやさん!?」

「いが9個も多いんだけど」

「数えないで下さい!っていうか何で寝室に向かってるんですか!」

「何でって…何でだと思う?」


そう言ってニヤリと笑う臨也さんは色気がありすぎて怖かった。

やばい逃げたい。でも、暴れたら落とすよ?と笑顔で言われたら、もう蛇に睨まれた蛙状態である。

身動き一つできやしない。



ボフン―――!

「ひゃ!」


いきなりベットに投げ出された。そして横からもボフンという音。

人肌が触れ合う感覚、そしてふわんと臨也さんの香水のにおい。


「臨也さん…何がしたいんですか?」

「んー?休息?」


臨也さんは、私を後ろから抱き締めている。


「だから、臨也さん!何してるんですか!」

「だから、休息」

「私は全然休まりません!」

「君ここ三日、ロクに寝てないでしょ」

「え……」


イキナリ事実を指摘され、言葉に迷う。


「やっぱり…顔色悪いと思ってた」


否定しようかと思ったけど、臨也さんの事だ。そんなのは無駄だろう。


「すみません…書類整理に時間がかかって…」

「あぁ、君ドン臭いからね」

「…否定はしません」

「本当に君は…、終わらないなら終わらないで俺に言ったらいいんだ。ココは大手企業とかじゃないんだし、そんな事でクビにはしないんだし」

「でも…仕事ですから」


そう、こんな上司でも上司に変わりは無いし、仕事だって仕事に変わりは無いのだ。


「君、ドン臭い上にドン感って本当にどうなのよ」

「はい?」


私がどういう経緯で鈍感になるんだ?と思っていると、ふいに臨也さんが私を抱き締めている手を強めた。



「心配だから言ってるんだ」

「え…」

「名前が心配、大事。だからちゃんと休んで。上司命令、OK?」


「…………は、い」



いい子。

そう言って、臨也さんはわたしの頬にちゅ、とキスをした。

いつもならキレている所だけど、なんでだろう。不快感が無い、むしろ――――



(って私!違う!違うぞ!嬉しくない!嬉しくないから!)


ドクドクと早く打ち出した心臓は無視をする事にして私は上司命令をこなすべく、瞼を閉じた。



違う 恋なんかじゃない


「臨――…あなた何やってるの」
「ん?猫を飼いならしてるとこ」

((名前…ご愁傷様…))





20100714.林田



臨也は確信犯です
それはもうモチロン

主人公は5日後に
臨也の毒牙にかかる予定

続編かこっかなっ



title:唇にナイフ様より