どうしよう。なんだコレなんなんだ。今、すごく泣きそうだ。

臨也が寝ている事だけが唯一の救いとでも言おうか。

体が、ガタガタという音を出すのでは無いかというくらいに、震えている。

純粋に恐怖が私をうめつくす。

そっと横で寝ている臨也の頬に触れてみる。


暖かい――――。


指先に暖かさが伝わる。

たったこれだけの事に泣きたくなるなんて。


臨也は仕事柄命を狙われやすい
。簡単に言えば…、いつ死んだっておかしくないのだ。



「臨也……」


愛しい人の名前を呼ぶ。

この名前を呼べなくなる日がいつかはくるのだろうか。


「臨…也…っ…」


この馬鹿みたいに整った顔の頬に触る事も出来なくなるのだろうか。

あぁ、どうしよう。涙が出て来てしまった。

まずい、私が泣いた事に臨也は怖いくらい敏感だ。

洗面所に言って顔を洗わないと…

「…名前?」




「っ…臨也…」

「夜か…目、覚めちゃったの?」

「うん…起こしてゴメンね」


臨也は軽く目を擦って、あくびをした。

あぁこんな小さい仕種すら愛しくて仕方が無い。

それより、早く顔を洗わないと。


「ちょっとトイレ行ってくる…」


パッと臨也から顔を背けて、ベッドから降りる体勢をとる。

片足をベッドから降ろしかけた時だった。



ギシッ―――――

「ひゃっ――?!」


さっきまで寝ていた臨也がベッドのスプリング音と共にあたしを後ろから抱きしめた。


「名前」

「ど、したの臨也」

「こっち向いて」


ほら、ばれた。


「嫌…」

「向いて」

「い、や……」

「向かせるけど」

「っ―――!」


ぐいっと少し乱暴に、私は臨也の方に向かされた。

少しでも顔を見せたく無くて、私は下を向く。

分かってる、
こんな事したって――



「ちゃんと俺を見てよ…。」


顎にそえられた臨也の手と切ないような声によって私は上を向かされるのだ。



「…やっぱり泣いてる」

「…っ…ごめんなさ……」

「なんで謝るの。何か俺に対して疚しい事したの?」

「ちがっ……」

「解ってる、名前はそんな事しない。だからこそ聞いてるんだ」


臨也の優しい声が私の中のモヤモヤを崩し出す。


「臨也っ……」

「うん」

「っ…臨也っ…」

「うん」

「死んじゃ…っ…やだ…よ?」

「え…?」


臨也はキョトンとした顔で私の顔を見た。


「臨也がっ…性格悪い…っ…からっ…」

「まぁ否定はしないけど」

「皆に狙われっ…てるからっ…」

「まぁそれも否定出来ないけど」

「私を置いっ…てっ…」

「死んじゃうんじゃないか?…って事?」


私はこくこくと頷いた。すると臨也がいきなり黙った。

馬鹿みたいだと思われたのだろうか。

まだ起こりもしていない、ましてや起こる確証など無い事に怯えて涙を流すなんて…



「名前」

「……ハイ」


私は怒られるのだろうか。


「一つ、間違ってる」

「………?…ハイ」


一つ?何だろうか。確証が無い事だろうか。


「俺は確かに死ぬかもしれない」

「…っ………うん」

「だけどね、」

「名前が残されるなんて事は絶対ありえない。」





「死ぬ時は一緒に名前も殺すから」





普通の人が聞いたら顔をしかめそうな台詞。


だけど


「そうだね…」


私からすればこれは最上級の愛の囁きで、私の精神安定剤なのだ。



残念ながら 重症です



あなたとなら地獄だって
最高のデートスポットだと

胸を張って言えるわ




20100714.林田



臨也ってこんなかんじ

だと 思う 笑


title:唇にナイフ様より