※情報屋のバイト設定



「ちょーっと俺の話聞かない?」


ずずいっ、と顔を寄せた折原のいつものにやにや顔。

あぁ、また始まった。










「不可解、実に不可解なんだ!」


折原はばっ、と両腕を広げ自分の台詞に酔いしれている。

私はいつもの光景に軽く溜息をついて、いつもの様に聞き返した。


「何が」

「よくぞ聞いてくれたね!」


――…テンション高いなぁ

今日の折原はいつもよりテンションが高い。何、何か怖いんですけど。明日は雪かな。

そんな事を思いながら書類を整理をしていた私の耳に聞き慣れた言葉が飛び込んだ。


「愛さ」

「愛…?」

「そう、LOVE!」


いや、LOVEは解るけど。

――…折原はいっつも…


「いっつも人、ラブとか言う折原が言うとはね」


私が色々な皮肉をこめてそう言うと、折原は「そう!」と言って私をピッと指差した。

――…なんかこのテンション、紀田に似てるな


「人、ラブ!俺は人間を愛してるんだ。それは不変の真理と言ってしまっても良い事実だ。だけど俺はさ」



――…え、


「お、りはら?」

折原は私をいきなり後ろから抱きしめた。


「どうやらそれ以外の愛に、気付いてしまったんだよねぇ」

「……っ」


折原の吐息が耳に掛かる。思わずその甘さに体が震えた。


「ねぇ、それはどういう愛だと思う?」


かぷ、と折原が私の耳たぶを噛んだ。ひゃ、と奇声が出た。


「知らないわよ…、それより私をどうして抱きしめているかの方が知りたいわ」

「これは最大のヒント」


だから答えるまで離さないよ、と言い楽しそうに笑った。

――…私が解ってしまってるの、解ってるくせに


「…狡いわよ」

「おや、何がだい?」

「そんなわざとらしい、嘘で固められた貴方の科白は要らない」


私がそう言うと、折原は一瞬動きを止めた後、私を抱きしめていた腕を強くした。


「最初はね、嫌いだったよ」


いつもの嫌らしい、舐める様な声じゃなく、折原本来の綺麗で優しい声が、私の鼓膜を揺らした。


「俺が人間との間にわざわざ張ってるバリアーを無視して無遠慮に飛び越えて来てさ」

「……ごめん」


折原が私の肩に顔を埋める。


「しかも超美形で通ってる俺の顔を気持ち悪いって言うしさ」

「それは作り笑いが…だよ」


私が言うと、折原は解ってるよ。と呟いた。


「名前は俺の作り上げて来た俺を…簡単にぶち壊したんだよ」

「うん……」

「だから…お仕置きだ」

「…お仕置き?」


折原は私をくるり、と自分の方向に向けた。

折原の顔はいつもの気持ち悪い笑みじゃなくて、頬が少し赤く染まっていた。


「名前が、俺と、一生一緒に居る事」


どくん、と揺れた心臓。


「…それが、お仕置き?」

「…嫌?」


そういう折原が寂しそうに笑う。ふっと笑って折原にキスをした。


「なっ…、」

「嫌な訳無いでしょう?」


「そんな幸せなお仕置きなら、喜んで」



無神論者の有愛論




愛してる、と囁いた臨也のその愛がもし嘘だとしても

私はその愛を愛そうと思った。



20100731.林田
(訂正:20101002)


臨也きゅん…





title:呼吸様より