――池袋西口公園

まだ夕陽も沈み切らない頃、ベンチでぷしゅっ、と酎ハイの缶を開ける女が居た。


「く、や、しーーっ!」


そしていきなり大きな声で叫ぶと、ぐいっと一気にその酎ハイを煽った。

――…なにさなにさ!やっぱり美人が1番いいんだよ男なんか!静雄のばかあほまぬけ!

彼女、名前が心中で叫ぶのは、池袋の自動喧嘩人形という異名を持つ、そして名前の彼氏でもある金髪で細身の長身の彼の事である。

――…静雄なんか知らない!いや知ってるけど…もう知んない!


「静雄のばぁぁぁぁぁぁか!」


人目も気にせずに叫ぶと、辺りに居た人々が振り返ったが気にせず名前はまた缶をぐいっと煽った。

そしてベンチにごろり、と横たわった。


「静雄の、………ばか」


今度は先程とは違う、弱々しい声で呟いた。

――…やば、なんか、泣きそ



「………誰がばかだ」

「ぐず、誰って、静雄に決ま…」

「こんな時間に酒呑んでベンチにねっころがってる女に言われたかねぇよ」


聞き慣れた声が名前の鼓膜を揺らした。がばっ、と名前はベンチから起き上がった。


「し、ず」

「こんなとこで寝てんなよ…ばかかお前は」

「なっ……………」


――…ばかは静雄でしょうが!

いつもの彼女なら叫んでいただろうが、名前はぎゅっと手を握り締めた。まるで何かを、押さえ込むかの様に。


「…そーだね、こんな所で、こんな時間に酒開けて、寝てる女はばかですよねー…」

「………、名前?」

「私はばかだね、静雄には、釣り合わないやーあはは」

「……おい、名前」

「静雄、には…合わない、ね」

「おい!」


じわり、と名前の視界が滲む。


「っ、ばいばいっ――!」

「名前!」


彼女は走った。ふと、静雄の手が名前の腕に触れたが振り払った。

――…やば、静雄追っ掛けてきた…!


「名前!待て!」

「待たない!来ないで!」


しかし単純に静雄に勝てる程、名前に脚力がある訳が無く、

――…隠れよう……!

路地裏に入り、死界になった場所に身を潜めた。直ぐに静雄の足音が路地裏に響いた。


「―…そこに、居るんだろ」


響いた静雄の声に、名前は自身の体を抱きしめ、出来るだけ小さくなった。しかしそんな頑張りも虚しく、腕を掴まれて立ち上がらされた。


「…離してよ」

「嫌だ」

「離して…っ」

「嫌だ」

「っ、なんで!静雄には、金髪でぼんきゅっぼんの娘が居るでしょう…」

「…………は、?」

「ヴァルバロッサみたいな娘、居るじゃない…この前抱き合ってたし?いいね、あんな娘。私が男なら、あんな娘が良いや!静雄の隣にも、似合ってたしさ…!」

「…………………」

「体型なんかガキで、顔とか性格だって可愛くないし、しかもこんな時間から、酒開けるわベンチで寝るわ、最低じゃんそんな女。私だったら願い下げだな」

「…………………」

「静雄だって、嫌、でしょ。だから、離してよ」

「…………、んな」

「…なに、早く離し――」

「ざけんじゃねぇ!」


――…ドゴォォォォン!

パラパラ、と音を立てて名前の顔の横の壁の一部が崩れた。そしてそこには、静雄の手。


「『静雄だって、嫌でしょ』……だぁ?」


静雄の顔は怒りに満ちていて、でも何故かサングラスの奥の目は悲しげで。


「俺がいつ、お前が嫌だっつったよ……」


名前の顔の手が、ぎゅっ、と握られる。


「俺がいつ、お前が嫌だって言ったんだよ…っ!」


静雄の声が、悲しげに響く。


「そんな事を言われたら、どこへいけばいい…?」

「………え?」

「そんな事を言われたら、お前が愛しくて愛しくて仕方がない俺は、どこへいけばいい…?」

「っ、…!」


どくん、と名前の心臓が音を立てた。喉の奥が締まる。視界が滲む。


「お前が言う奴はただの後輩だ。あいつは、確かに美人だ。そんでな、抱き合ってたっつーのは見間違いだ。あいつがただ躓いたのを支えただけだ」

「え………」

「俺が好きな女は、愛してる女は、お前だけなんだよ」


徐にぎゅ、と名前は静雄に抱きしめられる。


「勝手に、俺から逃げるなんか出来ると思うんじゃねぇ…」


そんな台詞とは裏腹に静雄の声は弱々しくて。

――…だめだ、私、静雄から逃げるなんかできっこない


「……………ごめ、」

「…ん」

「…ごめ、なさ……っ」

「…ん」

「……、好き、だよ…っ」

「…黙れ」




そうして二人は涙を落とす度に、愛を確認するのであった。


オンリーユー!


静雄だけ、
名前だけ、


なんだ(よ)、



20101011.林田



静雄ー静雄ーがー
かーけーなーいー

今回はめずらしくやきもちヒロイン。あーだめだー駄文だー