※来神時代



「見ろよ臨也このやろう」

「見なよ名前のばか」


私が落書きされた上、ボロボロにされた教科書を臨也に見せると、臨也は切り裂かれたジャージを私に見せた。


「なにそのジャージ」

「見たら分かるだろ?切り裂かれた、君の取り巻きに」

「あらそう偶然ね、私も教科書に落書きされたわ、あなたの取り巻きに」


私達は、似た者同士だ。



















「で、どうするわけ?」


屋上のフェンスに体を預けながら、臨也がひらひらともう使い物にならないジャージを風になびかせている。


「んー…?そうだね、取り敢えずクラスの全員のノートぱちって、知り合いの鑑識に筆跡鑑定頼む。見付かったらじわじわと退学に追い込む」

「はっ、流石名前」

「そういう臨也は?」

「まぁ、学校の監視カメラに侵入して犯人を探して、見付かったらねちねちと退学に追い込むよ」

「いやー、悪趣味だねぇ」

「名前に言われたくないよ」

「まぁほら、目には目じゃなくて目には針を、だから」

「はは、怖い怖ーい」

「うざや、いざいよ」


私達は、似ている。昔は似ていると言われるのは不愉快窮まりなかったが、今は自他共に似ているのは認めている。

この前、一緒に夕飯を食べる事になり買い出しに行ったら、「あの兄弟、超美男美女!」等と言われていた。

美男美女はいいとして、兄弟とはなんぞ、と思う。しかしそれくらい、似ているらしい。


「あれ、臨也と名前来てたんだ」

「あ、新羅ーおっつー」


屋上のドアが開いたと思ったら、幼なじみが顔を出した。


「どうしたの?そのボロボロの教科書とジャージ」

「聞いてよ、新羅!」
「聞きなよ、新羅」

「ああ、うん。聞くから取り敢えず一人ずつね」

「臨也の取り巻きのやつがさぁ」
「名前の取り巻きがさぁ」

「ちょっと、臨也黙りなよ。私が新羅に喋ってるんだから」

「名前が黙りなよ、俺は今からあること無いこと無いことを新羅に喋るんだから」

「おいうざや、無いことが多いぞこのやろー」

「気のせいでしょ」

「死ね臨――」
「いぃぃぃざぁぁぁやぁぁあ!」


ぺらぺらと息継ぎもせずに臨也と無駄な会話をしていると、地の底から這い上がってきた様な声が響き渡った。私達の良く知る、彼だ。


「はーい、死亡フラグー」

「げ…、」


―――バァァン!


「いぃーざぁーやぁー…」

「あはは、しずちゃんどうしたのそんなに怒って」

「怒ってないぞ…ただお前を殺したいだけだ」

「殺っちゃえ静雄ー」

「あ…?ああ、名前か。ま、名前も望んでる事だしよォ…死ね臨也ァァァァア!」


―――ガシャァァン!!

弾丸の様に拳を突き出しながら、飛んで来た静雄に殴られたフェンスは昇天していた。取り敢えず、拝む。

無論、臨也は避けていた。


「っ、余計な事言っちゃって、名前。明日後悔するから」

「私は後悔なんざしないからいいんだよーはーい早く逃げなよ臨也」

「待て臨也ァァァァア!」

「はっ、可愛くない!」


嵐の様に去って行った二人を新羅と見送り、静かになった屋上から、グランド走って行く二人を見ていた。


「本当、臨也と名前は仲良いよね」

「はは、うん。まぁね」

「いいの?言わなくて」

「ん?」

「臨也に、好きだって」


ざわり、と風が流れた。昔から知っていたけれども私の幼なじみは、やはり洞察力に優れていた。


「うん…、臨也と私は、似過ぎてるから駄目だよ」

「…?似てたら良いんじゃないのかい」

「ん?似てるだけじゃない、似過ぎだから駄目なんだよ」


私達は一緒でも、恐らく、くっ付く事は一生無いだろう。くっ付いたとしてもお互い幸せになれない事を私は――恐らく臨也も分かっているのだ。


「そう…、名前がそう言うなら、私は何も言わないよ」

「ありがとね、新羅」

「いや?あ、静雄が臨也のナイフで切られた」

「うわ、ほんとだ。あちゃー静雄ブチ切れだ。臨也死ぬんじゃない?」

「はぁ…また僕が治療するハメになるじゃないか」

「あははは」


私達の午後の一時を、柔らかい風が包んでいた。



N極とN極


くっ付きは出来ないけれど、
あなたと、一緒よ。



20101012.林田


珍しく、くっ付かないお話。
来神時代いいよなあ。