池袋の自動喧嘩人形の異名を持つ青年――…平和島静雄は、いつも通り、池袋を歩いていた。
いつも色んな会話が飛び交う池袋だか、今日は違った。擦れ違う人々が必ずと言っていい程口にしている事があるのだ。
「なぁ、聞いた?昨日また『アカガミ』が出たらしいぜ!」
「えぇ?ホントに?また警察に捕まらなかったんだ。流石生ける都市伝説だね…」
「しかも殺されたの、警察関係者らしいぜ?」
「えぇぇぇ…でもさ……」
決まって口にする言葉、それは池袋の生ける都市伝説『アカガミ』だ。
――…物騒な奴だな
同じ都市伝説とは言え、首無しライダーの彼女は全く無害と言っていい。それどころか一般人を助けたりした事だってある。
静雄はセルティを見習えよ、と心の中で呟き、仕事場に行く近道を通ろうと裏路地に入った時だった。
ヒュウゥゥゥ―――!
頭上から何かが凄い勢いで空気抵抗を受けている音がした。
――…何事……っは?!
何事かと思い空を仰ぐと、人が落ちて来ていた。
――…な、ちょ、お?!
静雄の脚力なら、避ける事も出来る。しかし避ければ上から落ちて来ているあの人間は間違いなくスプラッタだ。
――…仕方ねぇ…!
静雄は腕を落ちて来ている人間に伸ばした。
ドンッ――…!
落ちて来たショックを緩和するため、少し跳び上がり、落ちて来る人間の体をキャッチし、そのまま床に転がりショックを逃がした。
落ちて来たのは、女だった。しかも、赤茶色の髪をした美人だった。
静雄は一瞬見取れた後、はっ、と気を取り戻し、美人に話し掛けた。
「…大丈夫か?」
静雄がそう問い掛けると、美人はうっすらと目を開いた。
――…目、赤い…外人か?
「貴方こそ…あの高さから落ちた私を受け止めて…怪我は?」
「俺は大丈夫だけ……ど…」
ぬるり、静雄の手に生暖かいものが付着した。ふと自身の手に目をやった静雄は目を見開いた。
美人の肩からは真っ赤な血が流れ出ていたのだ。
「あ…んた!怪我してんじゃねぇか…!」
静雄が叫ぶと、美人はふっと笑った。
「大丈夫ですよ…かすり傷です。貴方どこかへ行かなくてはダメなのでは?置いて行ってくれて結構ですよ」
ぶちり、静雄から何かが切れた音がした。
「……界………に………だよ」
「はい…?――ちょ、ぬわっ?」
静雄はすっ、と凄い速さで立ち上がったかと思うと、凄い速さで走り出した。向かう先はもちろん、あの場所。
「えー…と?あの?」
「世界のどこに血を流してる女を見捨てる男が居るんだよ!」
美人はその言葉を聞き、一瞬目を見開くと、先程とは違う安堵したような、柔らかい笑みを零した。
「貴方…紳士ね……。あいつにそっくり……でも、あなたはエセでは、なさ…そ……う…」
がくり、と美人から力が抜けた。
――…っ!…まだ、死ぬなよ!
同時刻。
「池袋の自動喧嘩人形が血を流した赤茶色の髪をした女を抱えて池袋を爆走中………、ねぇ」
艶やかな黒髪をした青年は、パソコンの画面を睨んでいた。
「蓮夜…………?」
20100823.林田