崩壊を愛でた女神





池袋。

浮かない顔をした女――…蓮夜が、ビルの屋上を翔けていた。コンクリートジャングル、池袋では出来なくもない芸当だが生身でやる人間は中々居ないであろう。


――…折原臨也には気をつけなさい…ね


蓮夜は周りより少し高めのビルの屋根で、動きを止めた。

見下ろす小さな世界に、わらわらと生存する人間。その全てが折原臨也の手駒なのだ。蓮夜一瞬、はぞくりとした。


「…折原臨也には気をつけなさい」

――…しき兄は私が臨也の手駒にならないように、ああ言ったんだよね


久しぶりに見た粟楠会の四木ではない『しき兄』の姿に、蓮夜は昔の記憶を遡っていた。

蓮夜がまだ、自然な笑みが自然だった頃――…ポーカーフェースを知らなかった、否、知る必要が無かった頃だ。

「しき兄!早く遊ぼ!」

脳裏に浮かぶ、今とは全く違う、言うなれば逆だった自分に吐き気がした。それと同時に、酷く哀しい感情に襲われた。

蓮夜はぶんぶんと首を振ってその感情を吹き飛ばした。


――…しき兄、私は、手駒にされてなんかないよ


ふわり、と蓮夜の瞼の裏に臨也の顔が過ぎった。大人になってからは中々見せてくれない、優しい、臨也本来の笑顔。


――…私が…進んで手駒になっただけ、だ


ふっ、と自嘲めいた笑みを蓮夜が浮かべた瞬間だった。


パシュン―――!!

「っ―――…!?」


蓮夜の肩に鋭い痛みが走った。それと同時にバランスが崩れる体。


――…あ、やば…落 ち る


体を包む浮遊感と共に、蓮夜の頭は冷静に考える。

――…肩の痛みは先程立っていたビル、後方の高いビルから銃撃されたためだろう。恐らくチャーターアームか何かか。それにして受け身を取るには高さがありすぎる…。あぁ、私、死ぬのか。そうか、まぁいい。私が死んだ事で悲しまない人を探すより、悲しむ人を探す方が難しい。最後に……………った、な

人間の脳とは非常に素晴らしいもので、数十メートル落ちる間に何字頭に思い浮かべたろう。


さよなら、世――――…




トンッ―――…


壮絶な痛みを覚悟していた蓮夜には、柔らか過ぎる衝撃――…最早衝撃とは呼べない感覚が蓮夜を包んだ。




「……大丈夫か?」






20100822.林田








drrr!! 
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