彼女、蓮夜との出会いは小学生だった。所謂幼なじみという奴だ。
今も昔も変わらず女に囲まれていた俺は、一人の女が気になっていた。
いつも仏頂面なのに、いつも皆の真ん中に居る最早赤に近い茶色の髪をして、赤い眼をした女。
それが、蓮夜だった。
見た目は仏頂面で、赤茶色の髪という何と言うか小学生にしては厳つい。
なのに何で皆、彼女を慕い、好きになるのか理解不能だった。
ある日、取り巻きの女に聞いてみた。何故蓮夜を好きなのかと。
その女は、にこりと笑って答えた。
「蓮夜はね、私を助けてくれたんだよ!」
と。
他の女にも聞いてみた。すると皆が口を揃えて、助けてくれた、と口にした。
入学して数ヶ月。どうやってまぁこんなに大勢の人数を助けたのかが不明だった。
ある日俺は彼女に話し掛けた。
「俺は折原臨也、トモダチにならない?」
俺がそう言うと、彼女は仏頂面を動かさないまま呟いた。
「私を探って何が楽しいのかな?折原君」
俺と同じ、赤い眼が俺を捕えた。
「君はどーやら、あの折原家の長男みたいだね」
「そうだけど?」
「人間観察が趣味で、捻くれた子供だと聞くよ」
俺は目を見開いた。どうして、俺の事を。
「どうして、って顔してるねー?君は私の事調べてたんだから自分の事も調べられる覚悟くらいしときなよ」
からからと笑った目の前の女を、怖いと思った。初めて他人に恐怖を抱いた。
「あー安心してよ、そんなに怖がる事ないよ。同じ捻くれた者同士仲良くしよう」
スッと左手が出された。
「私は、神谷蓮夜」
俺達は握手をした。そして俺は、蓮夜の口から何故そんなに多くの人間を助けたのか訳を聞いた瞬間、思った。
「ああ、こいつはオカシイ」と。
「や……ざや…」
「いぃーざぁーやぁーくぅーん」
「止めてくんない…その呼び方」
うっすらと開いた眼に飛び込んで来たのは、蓮夜の顔だった。
どうやら俺はいつの間にかソファーで寝ていたらしい。
蓮夜はふい、と顔を離して濡れている頭をわしわしと拭いた。
「珍しーね、夢見てたでしょ」
「よく分かったね」
「だって、瞼閉じてるのに眼球がぎょろぎょろ動いてたし」
勝手に冷蔵庫を開けている蓮夜の後ろ姿を見て、俺はふと質問してみた。
「ねぇ、蓮夜」
「んんー?あ、臨也水貰うよ」
「俺とトモダチとやらになった日に、君が何で人助けをしてるか答えた理由、覚えてる?」
俺がソファーに座ったまま聞くと、蓮夜は冷蔵庫の扉を閉じて、振り返った。
「信じていた人間、それも絶大な信頼を置ける『恩人』に属する人間に裏切られた人間の表情を見たい事と、裏切られた人間はどういう選択肢で育つのかを観察したかったから」
極上の、笑顔で。
20100810.林田