崩壊を愛でた女神





「………………………」

「………………………」

「臨也…、そんなに睨まないでやりなよ」


蓮夜は今、臨也の前で正座をさせられていた。普段は10センチそこらくらいしか変わらない身長も、今は軽くその倍はある。その高さから蓮夜は臨也からの鋭い視線を受けているのである。


「…どうして怪我したの」


臨也が重苦しい空気をぶち破って口を開いた。その声は何故か悲しげで。

静雄は殴り掛かろうかと思っていたが、初めて見る臨也に、半硬直状態だ。


「ビルの上に立ってたら…撃たれた。それだけ…です」


しゅん、という効果音が聞こえそうなくらいうなだれた蓮夜は、ぼそぼそと言葉を紡ぐ。まるで母親に叱られて言い訳をしている子供の様だ。

蓮夜が言葉を言い終わると共に、臨也の眉間に更にシワが寄った。


「…それだけ?」


先程まで悲しげだった声に怒気が含まれだした。


「え…?ん、撃たれただ」

「撃たれただけ?」

「…………?うん」


蓮夜が頷くと、臨也は瞼を落とし、深く息を吸って深く吐いた。どうやら苛立ちを吐き出そうと試みた様だが無駄に等しい様だ。


「そういう意味じゃない…」

「……?…わかんないよ…」


蓮夜は混乱ぎみに、泣き出しそうな声で臨也に訴えた。

臨也はその訴えに答えずに、両手の平をぎゅっ、と握った。その手は、震えていた。


「……もう、いい。馬鹿蓮夜」

「え……、臨也?」


臨也は眉間にシワを寄せたまま、リビングの扉を開けて、リビングから出て行ってしまった。そして、玄関の扉が閉まる音が数秒後に聞こえた。


「っ、待って、臨也!」

「あ、こら走っちゃ―――」


そして蓮夜は、半泣き状態で玄関の扉に走って向かい、またその数秒後に玄関の扉が閉まる音を、新羅と静雄は聞いた。

しーん…、と静かになった部屋に静雄の溜息が響いた。


「本当に…あの二人は……」

――…臨也のあんなガキっぽい所、久々に見たよ


「なぁ新羅…、あの女と臨也はどういう…?」


静雄はハテナを大量に頭に浮かべながら、新羅に問い掛けた。他にも、臨也はあんなやつだったか?や、臨也はあんなに感情を表に出すやつだったか?など(8割方臨也の事なのだが)の疑問はあったが、一番の疑問はそれだ。


「うーん…どこまで言っていいのかはわからないけど、取り敢えず、あの二人は幼なじみだよ」

「……ただの幼なじみ、か?」


静雄はぼそり、と呟いた。先程の二人は、恋人――…いやそれ以上の、最早家族のようなものに見えた。しかし、家族と言うには何かが濁っていて。

静雄の質問に、新羅は苦笑いを零した。

――…ほんと静雄はそういう目に見えない事には、敏感だよね

本当に臨也とは真逆だな、と新羅は心の中で呟き、そして口を開いた。


「そうだね、強いて言うなら」

「依存しきった、幼なじみ――…かな」




20101002.林田










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