2011/02/26 22:53

もう大丈夫だよ。できるだけ優しく呼びかけてゆっくりと背中に手を回すと、俺は俺の胸に顔を埋めて泣き出した。俺、ひどいこと。あんな。だけど、あんな風に傷つけたかったわけじゃなくて。ただ、俺は。激しく泣きじゃくる俺の頭を撫でてやろうとそっと髪に触れると、狂ったように激しく首を振って拒否された。もう取り返しがつかないんだ。彼があんなに思いつめてしまうだなんて。よりによってあんなもの。あんなものを使ってしまった。俺のせいだ。全部、俺のせい。俺のせい。

 俺 の せ い

うるさいよ。逆立った髪を乱暴に掴みそのまま床に打ちつけると、ゴツ、と鈍い音がした。うめきながら立ち上がろうとする俺の頭部をもう一度床に押し付ける。なんて無様な姿なんだろう。ほんと、いい気味。あのさ。ひゅっと息を吸い込む音。ゆっくりと吐き出して呼吸を整えた。被害者ぶらないで。本当は世界で一番可哀想なのは自分だって思っているんでしょ?なんて浅はかで図々しい勘違い。俺さあ、俺を見てると一番イラつくんだ。俺なんかいなきゃよかったんだよ。俺なんか。自分勝手で乱暴で感情の抑えが効かない。そんな俺は必要ない。俺の身体を転がして仰向けにすると、さっきの衝撃で顔にできた擦り傷を俺がそっとなぞった。何。痛いとでも言いたいの?顔が傷ついたとでも?なんて忌々しい。それくらいの傷がなんだっていうのだろう。俺が彼に何をしたのか、まさか忘れたわけじゃないよね?俺の上に跨って俺を見下ろすと、俺の身体が反射的にビクリと震えた。覚えているだろう?こうして無力な彼を傷つけたこと。顔を上げて目を細めると、真っ白な世界の向こうに彼の姿が見えた。俺たちが何よりも欲しかったもの。俺たちがとっくに失ったもの。手の伸ばしかけて、やっぱりやめた。黙って彼の後姿を見送る。追いかけることなんて、もうとっくに諦めたんだった。ああ、そういえば。ゆっくりとため息をつきながら、目を閉じて暗闇の記憶を辿る。ちょうどこんな感じだったよね。あの時。わざとらしく右肩を斜めに運動させると、骨と骨が擦れる鈍い音がした。こんな風に肩のあたりを狙ってさ。拳を握って高く振りかぶる。俺を見上げる俺の瞳が大きく見開かれる。
「俺にはね、彼と同じ痛みを受け入れる義務があるんだよ」
声にならない声は静かな振動に飲み込まれ、黒っぽい鮮血が真っさらな世界を汚した。これっぽっちの痛み、彼のと比べたら。壊れるまで、壊れるまで、何度だって痛みを与える。助けてくれる人なんてここには誰もいない。あの日から俺たちは、息絶えることすら許されないこの世界に閉じ込められたのだ。





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