2011/01/31 22:47

さりげなく手渡された温かい缶コーヒーは、苦い苦い味がした。真っ黒なパッケージに気を留めず不用意に口をつけてしまい、思わず顔をしかめる。なんで苦いのにするでやんすか!こんなの初めて飲むでやんす!口を尖らせて抗議すると、さっきパス失敗してたからお仕置きだよ。と、見せ付けるようにカフェオレと書かれたミルク色のパッケージを手にしたヒロトが言った。あんたソレお仕置きって言いたいだけでしょ。とか、細かいことまでよく覚えてるなあ。とか、思うところは色々あったけど、なんとなく口には出さなかった。練習終わりの夕方、駄菓子屋裏の壊れかけのベンチは2人だけの居場所。周囲を伺いながらそっと掌を重ねようとする2人の間に、突然のすき間風が吹いた。

ふたりしてどうした?珍しいな。聞き慣れた凛々しい声。静かに揺れる青い髪。じっとこちらを見据える空色の瞳の奥、沸き上がる暗闇に侵食された痕が僅かに顔を覗かせていた。

偶然会ったんでやんす!栗松は、手にしていた黒い缶を勢いよく2人の隙間に振り降ろした。激しい運動の拍子で飲み口から零れた黒い液体が、ヒロトの白いジャージを汚す。じわり、じわり。太股に、細い針を刺されたようなちくちくとした熱が広がった。寒いから戻ろうと思ってたところでやんすよ!栗松が迷いなく風丸の隣に駆け寄る。板が外れたベンチの隙間をすり抜けた風が、嘲笑うようにヒロトの頬を撫でた。思わず顔が強張る。風丸が訝しげな目でこちらを見ている。犯した罪の痕跡が、はっきりと姿を現していた。

並んだ背中がどんどん遠くなる。君は一度もこちらを振り向かなかった。

君が口をつけた缶コーヒーの味。
涙が出そうなくらいに、苦い。

「カフェオレ、冷めちゃうなあ。」

焦げた色の液体が、体中にじんわりと広がった。どんよりとした色の空からぽつぽつと雫が零れてくる。真っ直ぐに落ちてきた一滴が、まるで目から零れ落ちたそれのように頬を伝った。
空が俺のかわりに泣いているみたい。涙なんか、もうとっくの昔に枯れている。






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風丸さんに顔向けできないふたり


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