2011/04/27 23:00

この部屋で1人過ごすことなんか正真正銘初めてのはずなのに、どうしてだかこの四角い空間を見回せば見回しただけ色々なことを思い出す。
良いことも嫌なことも、と言いたいところだけど、今のところは嫌なことの比率が圧倒的だったりする。これからは沢山楽しい時間があるからいいんだ、と言いきれるほどにポジティブにもなれない。
ベッドに腰掛けて物思いにふけっていると、カチャリとドアノブが動く音がした。そこで初めて誰かが近づいてきていたことに気づき、反射的にそちらに振り返る。

「一緒にお風呂入ってこないの?」

中学生ってもうそんなことしないんだっけ。本来なら許される立場にないはずの俺をなんでもない顔をして迎え入れたその人は、驚きの表情を隠さないままどこか楽しそうな声色で俺に話しかけた。まるでここが家族同士の空間であるかのように、畳んだ洗濯物をてきぱきと小さな箪笥に仕舞い込む。昔、俺たちがもっと小さかった頃は姉さんもこんな風にしてくれたっけ。不思議とまた、そんな光景が頭をよぎった。

「あの」

思わず立ち上がり、彼とよく似た小さな背中に声をかけると、彼と同じ丸い形をした瞳がくるりと動いてこちらを見据えた。

「俺、栗松くんのお母さんに謝りたいことがあるんです」

今日ここを訪れた目的の一つだった。俺は彼の家族に伝えなきゃいけないことがある。

「俺、大阪で」
「鉄平は先輩が泊まりに来るって言ってたけど、その先輩ってのがまさかあなただとは思わなかったな」

故意の行動であることはすぐにわかった。俺の言葉を遮ったその人は、どこか新鮮にも思える彼の下の名前を自然に口にする。

「俺のこと、許せないですよね。今から追い出してもらってもかまいません」
「いいのよ。だって、鉄平が呼んだんでしょ。あなたのこと」

微笑んだ目尻、柔らかく言葉を紡ぐ口元。そこに浮かび上がる母親という強い存在は、俺がこれまでに感じたことのあるどれとも違う。その人は俺の姉さんよりもずっと年上だけど、俺の父さんよりはずっと年下に見えた。母親って、どんなものなのかな。自分が苦しんで産んだ子供をあんな風に傷つけられて、すぐに許せるものなのかな。

「あの、でも、」
「だって、今日のあの子ってば朝からずっと楽しそうなんだもの。2人の間で解決できたなら、私が口を挟むことなんか何もないよ」
「だけど俺は、栗松くんのこと」
「これからも仲良くしてね」

優しげに細めた目は決して逸らされないまま、俺から零れ落ちる涙をそっと拭った。

「せっかくのお泊まりなんだから、鉄平にそんな顔見せちゃダメでしょ」

俺の身体を包み込み頭をそっと撫でる手は少しだけ、いつかの姉さんのそれに似ているような気がした。









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ヒロト「責任取ります。栗松くんを僕にください」
栗両親「許した」


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