「緑川が羨ましいって思わない?」 ただでさえ滅多に人が訪れないこの部屋の扉がノックされたその時点で少々驚いたというのに、しかも訪問者は予想外どころか予想の候補にすら入らないそいつだった。床に座り込みベッドに寄りかかりながら携帯電話を見つめていた俺の隣に図々しく勝手に座ったと思ったら、一番に発した言葉がコレだ。 「不動くんはそう思ったことない?」 「何オマエ、あいつのこと嫌いなの」 「そうじゃないよ。なんでそうなるの」 ゆるゆると口角を上げ、わざとらしく目尻を下げて、こいつは微笑む表情を作って見せた。楽しくもなんともないくせに。俺が気づかないとでも思ってんのか。こういうタイプははっきり言って苦手だ。いや、違う。嫌いだ。 「言いたいことがあるならはっきり言ってくんない。オレ頭悪ィから遠回しに言われてもわかんねぇのよ」 いかにも面倒くさそうに見えるよう意識して吐き捨てると、こいつ、基山ヒロトは、更に口角を高いところまで上げてニイッと不気味に笑ってみせた。 「言わなくてもわかってるでしょう」 ほんと、こういうの鬱陶しい。 「変な仲間意識持つのやめてくんねーかな。キヤマクン。」 「俺は羨ましいよ。あんな風に振る舞える緑川が」 わざとらしく手元の液晶画面に視線を移しても、こいつはまだニヤニヤとした笑顔を張り付けたまま俺の横顔に笑いかける。 「じゃあアンタもそうすれば」 「無理だよ。君と一緒でね」 虫唾が走る。こんなくだらない同族意識なんか、ゴミ程の役にも立たない。無駄どころか足を引っ張るものでしかない。アンタも堕ちたもんだな、エイリアの一番手だったんだろ。思わず口に出してから、しまったと思った。基山はまだ同じ顔のまま俺に笑いかける。 「うん。君と一緒でね。」 居心地の悪いこの狭い集団の中で、こんな胸糞悪ィ過去が寄り処になるだなんてまっぴらごめんだ。俺は絶対に認めない。 「俺はあいつらとは違う。そしてお前とも違う」 「俺と不動くんは一緒だよ」 基山の目尻が一層下がり、細められた視線はいつまでも俺の身体に絡み付いて離れない。勝手に過去を忘れることを許さないと言わんばかりに、それはいつまでも、いつまでも。 ------------- 私が頭悪いせいで頭悪そうなあきおになった。 |