約束は人生ひとつ分

 ローと最後にした会話は、しっかり覚えている。昔から忘れ物の少ないローが珍しく教科書を家に忘れてきて、もう授業が始まる2分前だという時にちょうど廊下を通りかかった私にローから声を掛けてきたあの日のことだ。「おい」「?」「数学の教科書貸せ」「忘れたの?」「ああ」文字にしてみればたったこれだけ。いつかと言えば、もう一ヶ月以上も前の出来事になる。
 というくらいに、私とローの関わりは現在かなり希薄である。同じ高校とはいえそもそも違うクラスだから話す機会がないことは仕方ないのだけれど、違うクラス以前に私とローはいわゆる幼馴染で、その辺のクラスメイトたちよりかはずっと付き合いだけは長いのだ。付き合いだけは。
 しかしなぜ私が一ヶ月以上も前の些細な会話まで覚えているのか、その時から経過した時間を指折り数えているのか、理由はとても単純だ。私がローのことを、ずっとずっと好きだからである。

「助かった」
「あ、うん」

 教科書を返された時の言葉数は、貸した時よりもさらに少なくこれだけ。ただ私が小さい頃好きだったミルク味のキャンディが手渡された教科書と一緒に添えられていて、思わずまじまじとそれを眺めてしまった。このキャンディは今も好きだけど、昔ほどではない。ローの中の私っていつの時代で止まっているのだろうと、嬉しいんだか悲しいんだか複雑な気持ちになったのを覚えている。
 幼稚園。家がごく近所だった私とローは、園の中でも外でも家に帰ってからも、なんなら休みの日だって毎日のように一緒に遊んでいた。その時からローは大変に賢いと評判で、齢5、6歳にして的確な判断ができ計算や読み書きだってお手の物なローに私はいつの間にか惹かれていった。
 小学校。勉強ができる上に運動も抜群にできたこともあって、その頃からローはモテた。大変にモテた。そしてそのモテムーブは現在も続いているわけであるが、何が言いたいかというとその時からずっと私は苦しんでいるということである。
 中学校。そのくらいの時期からローの身長がぐんぐん伸び、面と向かって話すにはだいぶ頭を傾けなければいけなくなった。同じクラスになったのは3年の時の一度だけ。中学生ともなるとみんな自分が男であることや女であることを意識していたし、その時にはもう昔のようになんでも気軽に話せるような関係性ではなくなっていた。
 そして高校。ついに3年間一度も同じクラスになることなく3年目の秋を迎えている。昔から知っている私でさえ、改めて遠くから見ると驚いてしまうほどにかっこよく成長したローにはなんとなく近寄りがたくなってしまい、話す機会は中学校以上にめっきり減った。代わりにローが女子から告白される回数は増える一方だった。ローの話題にだけは耳聡いので、告白の回数はローより正確に把握しているかもしれない。
 こうして私は十年以上も一途にローを想っているわけなのだが、これまでなんのアクションを起こすこともせず、ただぼーっと陰から見ているだけだった。ローからすれば、私はただの腐れ縁でしかないだろう。大学は違うところに進学することはラミちゃんから聞いているし、私もローも家を出る予定のようだから、そうしたら今以上に会えなくなることは目に見えている。
 幼馴染というだけで十分に特等席であることは分かっていたつもりだけど、やっぱりそれだけでは満足できなかった。普通にローに恋をして告白している女の子たちが羨ましくなった。このまま大学から社会人へと歩んでいく間本当にただの幼馴染のままで、いつの日かローが私の知らない婚約者を紹介してくる日が来るかも、なんてことを想像したら、胸が苦しくて仕方ない。だったら一度当たって砕けでもしないと(できることなら砕けたくはないが)、きっと一生後悔するだろう。なにせ今まで生きてきたほとんどの時間を、ローのことを好きでいるのだから。

「よし……」

 きれいにラッピングされた包みの入った紙袋を抱えて、家を出る。2分も歩けばローの家に着いてしまうので、家を出る前にたくさん深呼吸して覚悟を決めてきた。
 一世一代の告白の日を今日にしたのは、今日がローの誕生日だからである。卒業まで待つことも考えたけれど、おそらくローのことだから卒業間際にはたくさん告白されそうだし、その時は受験や入学の準備で忙しくてそれどころじゃなくなるかもしれない。それにローの誕生日を知っている人はそんなに多くないので、今日ならば横槍も入らずちゃんと時間を取ってもらえるかと考えたのだ。
 プレゼントは、これから寒い季節を迎えるから、無難だけどマフラーを選んだ。確か去年まで使っていたのはもう3年目くらいになっているから、変え時としてはちょうどいいはず。手触りにうるさいローに満足してもらえるように、ショッピングモールをハシゴしてお店を何件も回って見極めたものだ。と言っても、結構こだわりの強い性格をしているローに気に入ってもらえるかどうかは正直分からない。
 あっという間にローの家に着き、インターホンの前に立つ。もしお父さんやお母さんがいたら少しやりづらいな、と思いながら最後にもう一度深呼吸をして、インターホンへと手を伸ばした時だった。

「何してんだ」
「うわ!」

 思わぬ方向から声を掛けられて、肩どころか体全体が跳ねてしまった。勢い良く振り向くと、制服姿で学校帰りの様子のローがそこにいた。この時間ならもう家にいると思っていたのだが、今日は少し遅めの帰宅だったようだ。

「お、おかえり」
「ああ」
「あ……あの……」

 まだ心臓がバクバク言っている私の手元にローはちらりと視線を遣り、私の横を通り過ぎてポケットから鍵を取り出した。ガチャガチャという音の後に重ための扉が開き、ローがそれを片手で押さえながらこちらを振り返った。

「入れ」

 ローのそばを通り、何も悪いことはしていないのになんとなくこそこそと家の中へと足を踏み入れる。まだラミちゃんも帰っていないようで、トラファルガー家には誰もおらずしんと静まり返っていた。
 そのままリビングに通されて、プレゼントの袋を抱えたままダイニングテーブルの椅子に腰を落ち着ける。リビングを出て行ったローはしばらくしてから戻ってきて、私の正面に座った。最近冬服に衣替えした制服のブレザーから、私服の黒いパーカーとジーンズに着替えていた。私服を見るのも結構久しぶりだなと感じながら、押しかけた手前私から話さねばと視線を彷徨わせながら口を開いた。

「……誕生日だね」
「ああ」
「おめでとう」
「ああ」

 ローの素っ気ない態度はいつものことのはずだが、それがまるで脈なしであることを暗に言われているようで、告白する前から既に気持ちが滅入ってくる。私がプレゼントを抱えているのは見ていたから、誕生日プレゼントを渡しに来たことくらいはローも分かっているはず。だがここ数年は誕生日プレゼントなんて渡していなかったから、ローにとってはこの訪問はかなり唐突に感じるだろう。

「なんで急に?」

 なんて考えていたら、案の定訊かれた。そりゃあそうだ、私もローから誕生日プレゼントをもらった記憶は数年ないわけだし。

「……言いたいことがあって」

 プレゼントをテーブル越しに恐る恐る渡し、いよいよ切り出そうとごくりと唾を飲み込んだ。ローはプレゼントを受け取るとすぐに中身を取り出し、ラッピングの青のリボンを解いていった。目の前でプレゼントを開封されるのもドキドキするが、そんなのとは比べ物にならないくらい告白の方が緊張する。ローはネイビーのマフラーをしげしげと眺めながら、その感触を手で確かめているようだった。

「まあ、そうだな。18になったし」
「……う、ん?」

 なったし。なったから、なんだろう。ローの言いたいことがいまいち分からなかったが、ローがそのまま話を続けるようだったので違和感が解消されることはなかった。言いたいことがあって、からそのまま勢いに任せて告白しようとしていたので、タイミングが外されてしまったことに些か気持ちが焦る。

「お前、大学どこ行くんだ」

 私はラミちゃんから聞いてローの志望大学は知っていたけど、ローは当然私の志望は知らないだろう。第一志望の大学名を伝えると、ローはあそこか、とその大学の所在地を口にした。
 本当はローと同じ大学に行きたかったけど、医学部を目指すローの偏差値は相当に高い。夏ぐらいまでは同じところを目指して頑張っていたが、10月にもなるともう現実を見なければいけない時期だ。私にはどう頑張ってもここからの劇的逆転は難しいので、少し手を伸ばせば行けそうなところを今は第一志望にしている。
 医学部なんて行ってしまってさらにモテるであろうローのことは、正直見ていたくない。だったらその前に白黒はっきりさせてやろうと思って今日ここに来たわけだが、ローの反応を見るに私のことをそういう意味で意識しているとは到底思えなかった。ますます望み薄いな、と落ち込んでいることを必死にローに悟られないように頑張っていた私の前で、ローがマフラーをきれいに畳みながら唐突に、言った。

「そことおれの行く大学の間くらいで、部屋借りるか」
「……え?」

 今度は、言いたいことがいまいち分からない、どころではなかった。
 ローの発言が、ますます謎を極めている。部屋ならば確かに借りるつもりだが、どうして私とローの大学の間に。それにその言い方はまるで二人にとっての提案かのように聞こえたが、私の勘違いだろうか。ぽかんとする私にローは不思議そうな顔をして、さも当然のようにさらなる爆弾発言を言い放った。

「住むだろ。一緒に」

 開いた口が、顎の重さに釣られてさらに大きく開いていく一方だった。
 いや、なぜそんな、さも当然かのように。

「……私と、ローが?」
「それ以外に誰がいるんだよ」
「……」
「……」
「……なんで?」

 話が飛びすぎていてまるきりついていけない私と、ローが数秒見つめ合った。見つめ合うと言っても甘い恋人同士のようなそれではなく、お互いの考えていることがあまりに一致していないのでまずは認識の齟齬を埋めていくための、どちらかといえば奇妙でスッキリしない時間である。

「……約束しただろ」

 と、私にとってはまだ十分とは言えないレベルの理由をローは言った。
 約束。やくそく。ローと約束なんて、しただろうか。そもそも普段は会話さえあまり多くなかったのに、そのうちで何か約束を交わした記憶など正直言って、ない。私の記憶に残っていないのか、もしくはかなり昔の話を言っているのか、ぐるぐる考えるばかりで一言も発せずにいたら、ローが眉間に皺を寄せて私をジロリと見る。

「まさか、忘れたのかよ」
「……ごめん、約束って、なに……?」

 ローの圧に耐えかねたこともあり、正直に白状した。やっぱりいくら記憶を検索してみても、ローと何か約束をした覚えなんてなかった。しかも何年も前にしたとして、それが現在も効力を発揮しているような重要な約束なんて――まさか一緒に住むという約束なんて、した覚えがない。あるわけない。
 体を縮めさせ、恐る恐るローを窺う。申し訳ないという気持ちを前面に顔に表して見上げれば、ローは仕方なさそうに溜息を吐いた。私もローに関することは結構事細かに覚えているつもりだったけれど、ローはもともと記憶力が抜群なので私以上に昔のことを覚えている可能性は大いにある。
 だがまさか、「一緒に住む」以上のとんでもない内容の約束の話を持ち出されることになるとは、この時の私はまだ知らない。

「結婚するって約束したろ」
「け、え!?」

 あまりにも予想外のローの発言に驚きすぎて体が前のめりになり、ガタタと椅子から大きな音が鳴った。そんな私の反応に逆に驚いたローが、私の勢いにちょっと身を引く。
 結婚て、結婚て。どういうことだ。そんな約束した覚えなんて当然ない。というかそんな約束をローと交わせていたのだとしたら、私はもっと心に余裕を持って生きてこられただろう。そうじゃないから今まで悩み苦しんできたのだというのに。

「いつ!?」
「5歳」
「ごさい!?」

 なんかもう驚きすぎて、声がひっくり返ったしまた椅子の脚が床と強く擦れてギギギと音を立てちゃったし。さっきまでしんとしていたはずの家の中が、主に私のせいで喧しい。
 5歳といえば、ローと同じ幼稚園に通っていた頃だ。あの時は一緒にお風呂にもプールにも入るくらい仲が良くて、幼稚園に行っている間も家に帰ってからもいつも一緒にいて、私にとってのすべてがローであると言っても過言ではなかった。女の子の友達もいたけれど私がローが好きで好きで――というかそれは今でも変わらないのだけど――とにかく好きで、そうだ、それこそ将来結婚したいくらい好きだった。いやだから、言ってしまえばそれは今もなのだけど。
 衝撃と混乱で、頭の中がごちゃごちゃだった。しかし本当の本当に、実のことを言うと、約束は覚えちゃいなかったけれど、でもローが指している「約束」と思しき記憶であれば――ないことは、ない。

『おおきくなったらけっこんしようね』

 プロポーズまがいのこんな台詞を言ったのは、確かに私だ。その時のローの反応は、たしか「わかった」とか「うん」とか、とにかく頷いてくれたので嬉しかったことは覚えている。
 しかしこんな子供の言ったことを「約束」などと言えるのか。将来はパパと結婚するとか先生と結婚するとか、小さな子であればけっこう簡単に口にしてしまうそんな現実味のない約束を、ずっと大真面目に信じている人なんてなかなかいまい。いや絶対いない。

「……」

 言葉なんて、簡単に出てこなかった。ローが十年以上前の約束を覚えていて、しかもそれがまだ有効だと考えていたという事実を受け入れるのに、この短い時間じゃ到底足りなかった。
 けど、どうしよう、さっきからローが黙ったまんまだ。おそらく私が約束を覚えていなかったことに対して怒っている。覚えていない、わけではなかったけど「まさか本気にしているとは思わなかった」なんて言ったらまた話が拗れそうだしローの機嫌を損ねそうだったので、覚えていなかったという体にしておく。ローにとっては当然の約束ごととして今まで継続していたことなのだ。私だって、友達とした約束を一方的に忘れられていたら悲しいけども。
 しかし覚えていたとして、年端もいかない時期の約束を本気にしているというのはどうなのだ。5歳なんて物心がつくかつかないかの時期で、結婚などという人生においても相当重要なことを決めてしまうにはどう考えても早すぎる。
 だが今ローが私に求めているのは、私の思考の経過や感想などではなくおそらく結論。ローの中では約束は当たり前に続いていて、これから高校を卒業したら一緒に住むことまで考えていたみたいなのだから。約束を、守るのか破るのか。さっき18歳がどうとか言っていた意味がようやく分かった。あれはローが、今日でようやく結婚できる歳になったということだろう。

「……ま、守るよ。約束」
「……」
「……だって、私今日、ローに……告白しに、来たんだし……」

 ローの鋭い視線に負けないように腹に力を入れてから、たどたどしくも意思を伝えた。経緯はどうあれ、方向性としては一応私にとって嬉しいものなので、守ればいいだけのこと。いや「だけ」という言葉で片付けるのは少々間違っている気もするが。ついでに今日来た目的をさりげなく口にした。言ったあとで顔が熱くなるのを感じたが、ローを見遣れば全然告白された人間の顔をしていない。それもそうか、告白され慣れているだろうし。

「約束しておいて今更ほかの男が好きだとか言われても承知しねェよ」
「……そうですね……」

 いちおう一世一代の告白だったのに、当たり前みたいに流された。はは、とから笑いが漏れたが、ローはずっと真剣な表情のままだった。本当に、本気らしい。まじか。冷たいように見えて意外と律儀で義理堅いことは知っていたけれど、まさかここまでだったとは。

「……だから今まで、誰とも付き合わなかったの……?」
「当たり前だろ」
「なるほどね……どうりで」
「お前もそうだろ」
「私はチャンスがなかっただけですけど……」
「……チャンスがあれば誰かと付き合ってたってことかよ」
「……いえ」

 危ない、またローの眉間に皺が寄りかけた。でも結果オーライ、モテない女でよかった。といっても、男の子から告白されたことはゼロではない。もしその時付き合うことを承諾していたら、ローが口を挟んできて修羅場を迎えていたかもしれないということだ。つくづくよかった、モテモテのイケイケ女じゃなくて。
 それにしても、今までローが約束を真面目に信じ続けているようには全く見えなかった。結婚するつもりでずっといたとして、普段大した会話もしないというのはどういうつもりだったのだろう。そこまで考えて、まさか、とひとつの可能性が浮かび上がり、念のため確かめてみることにした。

「約束守らなきゃって、義務感でけ……結婚しようとしてる?」
「……」
「ほかの女の子の方が本当は好きなのに……とか……無理してない?」

 私の言葉に縛られて自由恋愛ができなかったのだとしたら、だいぶ申し訳ない。言い出しっぺの私は約束をすっかり忘れていたわけだし。というかそんなの信じている方がおかしいような気もするけど、なんにせよローは律儀に約束を果たそうとしてくれていたのだから。
 ローが義務感で結婚しようとしてくれているのなら、それは私にとっても本意ではないし嬉しくもない。つまり約束云々ではなくローの気持ちはどうなのかと訊いたということになるが、ローの返答はまたもや私の想像とは別方向のものだった。

「……ほかの女とどうこうするとか」
「……」
「考えたことねェ」

 一拍置いて、ソウデスカ、とカタコトに答えた。
 じゃあ私とどうこうすることは考えていたんですかとか、どうなる想像をしていたんですかとか、聞きたいことは山ほどあったけど体が茹だったように熱くてもう限界だった。なんだかとんでもないことを言われている気がするが、事実を受け止めるのに精一杯でそれを評価するまでに全く至らない。
 本当はもっとちゃんと、はっきり聞きたい。でもローがこれまで彼女を作らなかったことも、私と一緒になる気持ちがあるということも本当なようなのだから、今の私はこれ以上を望まなかった。







「頭おかしいだろ」

 大学近くのファストフード店でシェイクを吸い上げるキッドの、あまりにも歯に衣着せぬ講評が、それを受け入れた自分にも刺さって言葉に詰まった。
 時は流れて、現在5月の大型連休明けの平日。私もローも無事第一志望の大学に合格し、そして約束通りお互いの大学のちょうど真ん中の駅近くで一緒に住み始めて、一ヶ月と少しが経っていた。高校が一緒だったキッドと私は同じ大学に進学しており、こうしてたまに話をする仲である。
 ローとの話を打ち明けたのは、キッドが初めてだった。なんとなく人に気軽に言いづらかったので女の友達にも言っていなかったのだが、今のところ生活も順調だったので満を持して第三者に事の経緯を伝えてみたのだ。キッドの反応は予想通りだったし、ごもっともだった。

「……やっぱり?」
「当たり前だろ。ガキの頃のんな約束、ずっと本気でいる奴があるかよ」

 頭おかしいなトラファルガーもお前も、と付け足された一言に、今度こそ何も言えなくなった。
 キッドの言っていることは、そうなんじゃないかと私もずっと思っていたけど、それが自分に大変都合の良いことだったので言語化していなかったことそのまんまである。しかし無関係の他人からすれば、やっぱりおかしいということだ。そうだよな、そうだよね。5歳の約束を高校生まで覚えてるって、普通じゃないよね。

「……結果オーライってことで……」
「ああ、よかったな。お互いバカで」

 一応私は約束を本気にしていたわけではないのでローと同類にされるのは些か不満であったが、約束を受け入れてしかもそれを喜んでいるわけだから、一緒にしないでくれるとは言えなかった。でもそんなちょっとおかしいローであっても好きという気持ちに全く変化はなかったので、結局は私も同じ穴の狢なのである。




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